落下点《短編》

狭い脱衣場にこだまするように、着メロが響く。頭の中に、直に流れ込む。


…出ちゃ、だめだ。あたしはもう、朋也くんと関わらないって決めたんだから。


…でも。


踵を返して去っていった黒髪を思い出す。

いつも自信に溢れた明るい彼の、朧気で虚ろな、背中。後ろ姿。


──あたしのことをこれからもずっと好きだと言った、彼の泣き顔。



あたしは恐る恐る、通話ボタンに指を伸ばした。湯気にふやけた指が、電話を繋ぐ。


「………」

「…トモ、ちゃん…?」


受話器の向こうで、朋也くんの声がした。

そんなに前のことじゃないのに、なぜか懐かしい想いに駆られる。心の奥が、チリチリとする。

未練があるわけじゃない。それはあたしの罪悪感と、後悔。あたしがもし、ぐらついたりなんてしなければ、きっとあたしたちは何の躊躇もなく笑いあえた。

あの六人組で騒いで、はしゃいで。陣ちゃんも、親友を失うことなんてなかった。

…あたしは朋也くんを、ただ人として、好きでいられたはずなのに。


「…ごめんな、いきなり。もう連絡せんって、ゆうたのに…な」

「……ううん」

「…今日ガッコおったよな。…うん、なんかな。久しぶりで。帰ってもずーっと頭ん中ぐるぐるしとって、」

「………」

「どうしても、離れんかって。…いきなり、ほんまごめん」


…だめだ。


体から湯気がのぼる。なのに、体の中心が冷たくなっていく。

…だめだ、これ以上聞いたら。

あたしは一番大事な陣ちゃんを、陣ちゃんだけを大事にするって決めた。決めたんだ。

ほんの少しでも心を揺らしたなら、それは裏切りになる。


…切らなきゃいけない。

返事をしちゃいけない。中途半端に繋いじゃ、いけない。


ボタンを押すだけだ。なのに、それを躊躇する。


「…トモちゃん、」


呼び捨てじゃない、彼だけが呼ぶ名前は、たしかにあたしのものだから。


「…ごめん。…前みたいに、無理言わんからさ。やから」

「………」

「…嫌いにだけは、ならんといて」
「〜っ!!嫌いとか、…嫌いとかそんなこと──!!」


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