…どうして。
ずり落ちそうになった手のひらを、ギュッと握られて我に返る。
はっと陣ちゃんの顔を見上げる。
陣ちゃんは口を真一文字に結んだまま、透き通る瞳はただ真っ直ぐに前を見つめていて。
とても冷たかった。まるで威嚇しているように、鋭い眼差しだった。
寒そうな首元。喉仏が、小さく動く。
「────」
…それはほんの数秒だったのに、まるで永遠に続いているかのように長く感じた。
五感が全部、麻痺してしまったみたいに。真昼の喧騒もすっかり消えてしまって聞こえない。
ただあたしの視界の端っこで、かろうじて背を向けて去っていく黒い頭だけを捉えた。
頭の中で、赤や青や黄が飛び交う。きっとそれは、あの夏の、海辺の花火の残像で。
夜の海は暗かった。暗くて、黒くて。シャンパンゴールドの輝きは、その黒の中に溶けて消えてしまったのだ。きっと。
…きっと、もう戻ることはない。
陣ちゃんは繋がれたままの手を引きずるように前へと歩いた。あたしはただそれに従うみたいに、彼の背中を追った。
けれど食堂につく頃には、いつのまにかその手と手は離れてしまっていた。
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