落下点《短編》

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代償は、あたしが考えていたよりずうっと大きいものだった。



陣ちゃんが帰ってきたあの日から、またいつもの日常が戻ってきていた。

朝はどちらかが早い方を見送り、就活やら何やらで出かけては、晩ご飯を一緒に取る。そして夜は、隣で眠る。

言葉にしてみれば、それは何も変わらない、あたしと陣ちゃんの日常なのに。


二人の間に流れる空気が違うことに、あたしは気づかずにはいられなかった。きっと陣ちゃんも、気づいていたんだと思う。


二人で食卓を囲んで笑っていても、どこかぎこちなくて、不自然になってしまう会話。

お互いがお互いに気を使いあっているみたいで、それが嫌で、でもどうしていいかわからなかった。


ごめんね、と、ごめんな、が増えた。まるで相手の機嫌を伺うように、あたしたちは些細なことで謝り合った。

だってそれはしょうがないことだ。あたしが全部悪いんだから。急に何も無かったことになんてできない。

陣ちゃんはあたしを信じてくれていた。これからも信じると言ってくれているんだ。

なくした信用を取り戻すには時間がかかるけれど、いずれ月日が経てばすっかり元に戻れるだろうと自分に言い聞かせるしかなかった。




後片付けは、ご飯を作ってもらった方だとあたしたちの中で決まっている。今日の夕飯は陣ちゃんの塩焼きそばだ。

皿洗いを済ませ、陣ちゃんのいるコタツにこそっと戻る。鼻先に届く焦げた臭いがとたんに濃くなった。

あたしの気配に気づいても、陣ちゃんは耳をぴくっとさせただけで、こっちを振り向きはしない。

かかっているのは、一度もまともに見たことがない連続ドラマの何話目か。興味はないくせに、一生懸命それに見入るふりをする。

…この女優さん、なんていう名前だったっけ。


陣ちゃんに聞こうとして、でも少しためらって、もう一度自分で考えた。でも思い出せない。


陣ちゃんが少し、体をずらした。その時ふと、互いの足が当たった。


「…あ」

「…ごめん」

「ううん、こっちこそごめんね」


ごめんな。ごめんね。しょうがない。だって、あたしが悪い。きっともっと時間が経てば。

何回もその流れが頭の中で繰り返される。


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