落下点《短編》

恋人と親友。信じていた人を、一度に失いかけて。

その当人がどんな気持ちだったかなんて、こんなあたしにわかっていいはずもない。



「…陣ちゃん」

「……」

「陣ちゃん…」

「……」

「…陣ちゃん」

「………朋美」



戸惑いながら、それでも陣ちゃんの腕に手を伸ばした。

触れた皮膚は、いつもよりずうっと冷たかった。

それでもその奥に感じる体温が、ひどく愛おしくて仕方なかった。


ぎゅうっと確かめるように手を握ったとき。「もうどこにも行かんといて」って、小さな声で、陣ちゃんが言った。




…どこにも行かないよ。

ずっとそばにいるって約束する、陣ちゃん。だからずうっと、そばにいさせて。



約束する。もう絶対、何があっても裏切らないって。


穏やかな毎日に舞い込んできた波に心が揺れた。あたしは最低だ。

よく考えてみれば、本当に大切にできるのは、大切にしていいのは目の前のひと一人だけなのに。




握った手のひらを握り返してくれたとき、元に戻れたんだと思った。

歯車がしっかりとかみ合うように、一緒に回って、同じ時を歩むように。



ありきたりな台詞だけれど、でもこのときあたしは確かに、世界で一番、陣ちゃんを愛してた。




だから思わなかった。


一度掛け違えた歯車が、狂い初めてどんどんとずれていくなんて。


互いの歯を傷つけて、すり減らしていくなんて。












.