落下点《短編》


陣ちゃんの声は、かすれていた。

突然の出来事に頭がついて行かない。口の中が渇ききって、言葉が出ない。空っぽになったはずの中身、なのになんで、なんでこんなに、


「じん…っ、」


涙が、止まらない。


「ごめ…陣ちゃ、…ごめんなさい…っ、」


泣いちゃいけないのに。あたしには泣く権利はないのに。
…だって、あたしが泣いてしまったら。


立ち尽くしたままの陣ちゃん。あたしは怖くて、ただ同じ言葉を繰り返したまま、彼の顔を見ることができないで俯いたまま。

ベッドのシーツに、ぼとりぼとりとシミができる。


「ごめん…ごめんね…っ、」

「……」

「陣ちゃん…ごめん──」

「それは、」


低い声が、真上から落ちてくるように響いた。


「…それは、何に対してのごめん?」


ゆっくりと俯けていた顔を上げる。かち合うと思った陣ちゃんの目線はそこにはなくて、陣ちゃんも俯いたまま、あたしを直視しようとはしていなかった。


「…うちが…、陣ちゃんを裏切るようなこと、したから…」

「……」

「…陣ちゃん、気づいてたんやろ…?」


それなのに責めたりしないで、あたしのことを、信じてくれてた。

笑って、いつも通りに、


「…っ、陣ちゃ──」

「…違う」


絞り出したような陣ちゃんの声。とても強くて、なのに…とても頼りなかった。

目の前にいるのに、影の落ちる陣ちゃんの顔はぼやけてしまってもうよく見えない。


「違う…ちゃうねん、俺は…、」


きつく握られた拳が、スーツの袖からのぞく。

震えているのはあたしの瞳か、それとも。




「〜っ、怖かっただけや…!!」




─朋美を失うのが、怖かっただけや。








『俺、多分、朋美が思っとるよりずっと、朋美のこと、好きやわ。…うん、改めまして、やけど』






肩を震わして涙を見せないようにしている彼を抱きしめるための、温かい腕を持っていたかった。

近づきたかった。でも近づけなかった。

頬を涙が伝う。泣いちゃいけない。だってあたしが泣いたら、陣ちゃんが泣けないのに。


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