─陣ちゃん、どこにおるん?
─お願いやから帰ってきて。
親指で、同じような短いメール文を何度も打った。返事はない。電話も繋がる気配は全くなかった。
周辺を探し回ったけれど陣ちゃんは見つからなかった。心当たりのある場所は全部あたり尽くしたのに。
時計の針は真夜中をとっくに過ぎて、薄暗い夜明けとの境界線にさしかかるところ。携帯を握りしめたままベッドに潜っても、一向に眠りはやってこない。
隣にあるはずの温度が、ここにはない。
寒くて寒くて、奥から押し出されるように涙が止まらなかった。なぁ、どんな酷いこと言っても罵ってくれてもええから。
─帰ってきて。
帰ってきて。帰ってきて。陣ちゃん。
翌日、行く予定だった会社の説明ガイダンスも結局キャンセルすることになってしまった。
とても行ける気分なんかじゃなかったし、それに泣いたのと寝不足との相乗効果で目が腫れて、お世辞にも外に出れる顔とは言い難かった。
冷蔵庫からアイスノンを取り出すと、タオルを巻きつけて目の上にのせる。じゅわっと広がる温度は火照った顔には低すぎて、まるで火傷したみたいにひりひりとした。
ベッドの上に放り出された携帯は、黙りこくったまま。陣ちゃんからはもちろん、陣ちゃんを見つけたら連絡すると行っていた朋也くんからの着信もない。
朝日が目にしみる。泣きすぎて空っぽになってしまったみたいだ。あたしの中身。頭の中がぼんやりとして、考えがまとまらない。
─もうだめなんかな。
霞んだ頭の中で、ただそんなことばかりが浮かんで。
…その時だった。
ガチャリ。玄関先で、ドアノブが回る音がした。
背中から聞こえたその音に、思わず肩が震える。
溶けかけたアイスノンがべたり、床に落ちる。
ゆっくりと振り返る。
その先。
昨日の朝出かけたまま、スーツ姿のままの陣ちゃんが、目を見開いて立っていた。
ボロボロのあたしを見て、驚いて息を呑む。
あたしが昨日手渡した青いネクタイが、首元で少し曲がって。
「…なん…で、居んの…」
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