冷え切ったあたしの手から、携帯が滑り落ちた。
…陣ちゃんは見てしまっていたのだ。あの日。久しぶりに開かれた、飲み会の夜。
酔い醒ましにあたしたちが抜け出したちょうどそのすぐあと、陣ちゃんは目を覚ましていた。ぼうっとする頭、火照った顔のまま、陣ちゃんも新鮮な空気を吸いに外に出て。
そして偶然にも、あたしたちが話していたことを聞いてしまった。
知ってしまった。朋也くんが持て余していた気持ちを。
見てしまった。彼があたしに触れる動作を。あたしが流される瞬間を。
床に沈んだ携帯が、くの字に折れ曲がったままあたしを恨めしそうに見上げている。
あたしのものじゃないみたいだ。だらんと体の横に垂れた腕が、力の入らない手のひらが。
…知っていた。陣ちゃんは全部、知っとったんや。
こっそりと連絡を取っていたことも、夜中に家を抜け出したことも。ぜんぶ。
それなのに陣ちゃんは、何も言わなかった。なんにも知らないふりをして、笑ってた。
いつか気づいてくれるって、戻ってきてくれるって。
陣ちゃんはあたしを、信じていたんだ。
陣ちゃんはあたしのことも、朋也くんのことも。彼女として、親友として、すごく大切に思ってくれてた。だから傷つけないように、一人で、一人っきりで、耐えてた。
…どれだけ不安だったんだろう。
『…一緒に住もか』
あのとき。
あの時、陣ちゃんは…どんな気持ちで。
「……っ、」
熱い塊が体の奥から押し寄せて、ぼたぼたと床に落ちる。
光を失った携帯のディスプレイが濡れていく。泣く権利なんてないのに、あたしは泣いた。
陣ちゃん。陣ちゃん。陣ちゃん。ごめん。
口の端から漏れる。声にならない声で、泣いた。
そのとき初めて、あたしは自分の愚かさを見せつけられた。
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