落下点《短編》


…陣ちゃんだ。そう確信して、慌てて携帯を割り開いて耳に当てた。

でもそこから聞こえてきたのは、予想もしなかった…別のひとの声で。



「──トモちゃん?」



一瞬、息が止まった。


「え…朋也…くん?」


あれから一度も、聞かずにいた声。ふわりと、どこか柔らかい発音で呼ばれたあたしの名が、なぜかひどく懐かしい。

…どうして。

少しの間、どちらともしゃべらなかった。空気を飲み込むのもはばかられる、重たい沈黙。



「トモちゃん…ごめん…」



そしてそれは破られた。いつもよりずっと重い、朋也くんの言葉で。

携帯を握りしめたまま、訳が分からなくて戸惑った。

…どうして。なんで、ごめん、なんて。


「陣と…一緒におるやんな。…アイツと…なんか話した?」

「え…なん…、なんで…?陣ちゃん、今日まだ帰ってこんくて…」


携帯も通じへんねん。そう言ったとき、電話の向こうの空気が変わるのを感じた。

体がぶるっと震える。そういえば裸足のままだった。フローリングの床の上、足の先から体温が流れ出る。

─朋美の手ぇはなんでいっつもあったかいん?陣ちゃんは言う。違うよ。陣ちゃんのいない部屋、今はこんなにも冷たい。


「陣にな…、今日、陣に会ってん、俺…っ」


そうして頭のてっぺんまで冷えて、冴えた脳内にはこれまで以上に朋也くんの声がはっきり響いた。

─俺のせいや。朋也くんは思いつめた声で、そう言った。


「俺、ゆうてもてん…っ!トモちゃんのことが…好きやったって」


一人で黙ったまま抱えきれへんかった。そう言う朋也くんの声は震えていて、今にも散り散りに、ちぎれてしまいそうなくらいに。

朋也くんは優しいひとだ。平気なはずがなかったのだ。罪悪感と、自分の気持ちに挟まれて…押し潰されて。

ごめん。ごめんな。呪文のような言葉の羅列が、あたしの中身をドロドロに溶かす。


「え……」

「もちろん会ってたこととかはゆうてへんよ、でも…」


次に朋也くんが絞り出した言葉が、信じられなかった。



「知っとってん…アイツ。…俺らが連絡取ってたやろうってことも…会ってたやろうってことも。」



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