落下点《短編》


ごめん、は、あたしが貰っちゃいけない言葉だから。

あげる言葉も、あたしは持っていなかったから。




黙っていれば、誰にも知られないまま、いつかは薄れて、消えてしまうような気がしていた。

あれは現実だったのか、それすらもわからないほどあやふやになっていくと思ってた。


自分の愚かさに、あたしは少しも気づけなくって。


そうっと川底に沈めてしまえば、いつの間にか丸くなるから。

…尖っているのも、角張っているのも。






「…寒い」


布団の中で、陣ちゃんが体を折り曲げてそう言った。


「そりゃ冬やもん」

「…なんで朋美の手ぇはいっつもそんなあったかいん?」

「陣ちゃんが冷たいだけやん」

「…だって俺」

「冷え性なんやろ?」


陣ちゃんが隣でふっ、って笑うのがわかった。

…冷え性やから、女性ホルモンが多いんかもしれへんのやろ?やから、ヒゲもそんな濃くないんやろ?

覚えてる。全部陣ちゃんが言っていたこと。あたしはザラザラしない、陣ちゃんのあごがすきだ。キスをするとき、痛くなくってちょうどいい。



寒い季節だ。


陣ちゃんは必ず、あたしを抱き締めて眠った。


「…カイロみたいや」


そう言って、あたしの隣で眠った。






まるで日だまりみたいな。こんな日々が、ずうって続いていくのかなって思っていた。


そんなある日のことだった。


その日は、あたしの方が先に帰ってきていた。ヒール靴を揃えて脱ぎ、陣ちゃんの部屋の明かりをつける。

晩御飯を作って、陣ちゃんの帰りを待っていた。
…でもいつまでたっても、陣ちゃんは帰ってこなかった。


携帯の画面を見ると、夜の10時を過ぎていた。着信はない。今までこんなことなかったし、いくらなんでもおかしい。


不安に思っていたその時。手の中にあった携帯が震え出した。

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