落下点《短編》





…久しぶりに、夢を見た。


最近は疲れていたからか、夢なんて全然見なかったのに。

世界には二人しかいなかった。あたしと、陣ちゃんのふたりだけ。


陣ちゃんの髪は今よりもう少し短くて、ほんのりとした焦げ茶で、首もとにはチェックのマフラーで。あたしは思う。ああ、初めて話したときの"陣ちゃん"だ。


陣ちゃんが少し幼い笑顔で、あたしに笑いかける。

世界は真っ白で、他には誰もいなくて。だからあたしが話せるのも、触れられるのも…陣ちゃんだけで。


…そんな変な夢だった。でも何を話したのかは、ハッキリ覚えていなかった。






忙しさに追われるようにしていると、1日の流れも速く感じるから不思議だ。

就活関係であちらこちらに出向き、晩にはいつものように自分の家じゃなく陣ちゃんの家に帰った。

二人とも遅いときは出前をとったり、どちらかが早いと適当な料理を作ったり。陣ちゃんはレパートリーが少ない。ソース焼きそばか、塩焼きそばか、べっとりしたチャーハン以外のものにお目にかかったことがない。

昨日の晩は、早めに帰れた陣ちゃんが作ってくれていた。


「今回うまくできたねん!」


そう言って満足げに出してくれたのはチャーハンで。

スプーンですくって口に運んだ。やっぱりいつもと変わらず、ちょっとべっとりしていた。






…あれから一通だけ、朋也くんからメールが来た。


まだ二週間もたっていないのに、なんだかずいぶん前のことのように感じるのは何でだろう。


消すことも、保護することもできないメール。次々に来るメールに追いやられながら、まだ受信ボックスの中にとどまっている。


朋也くんのメールには、たくさん。たくさんの "ごめん" があった。



"多分これからも、俺はトモちゃんが好きなんやと思う。"



──しつこーてごめんな。メールの最後には、そう書かれていた。



返事は、しなかった。



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