「…だめ」
壊れ物を扱うみたいに、手首をそっとつかむ。
朋也くんはあたしを見つめたまま、動きを止めた。
「朋也くん、…アカンよ」
「…これからも、」
泣きそうな笑い顔は、もう泣き顔に変わっていた。涙はかろうじて、くっきり二重に縁取られた瞳の中にとどまって。
──そんな顔せんで。
そう言ってあげたかったけど、言えなかった。抱き締めてあげたかったけど、できなかった。
だってあたしに、そんな資格はない。
「これからも」、震える声で、朋也くんはもう一度そう言った。
「ずっとずっと、待っとってもさ。…トモちゃんが俺んとこ来てくれることはないんかなぁ?」
そのまま倒れ込むように、朋也くんはあたしの肩に頭をもたげた。
その確かな重たさに、あたしも泣きそうになる。
カーペットと朋也くんの体温に挟まれて、なのにあたしはすうっと自分の中から暖かさが抜け落ちていくのを感じた。
…もういい加減、清算しなければと思った。
あたしの勝手で、こんなの朋也くんのためにもならない。
あたしは朋也くんに惹かれているのは本当だ。だけどその気持ちは、誰も幸せにできない。
朋也くんの手は、陣ちゃんのよりずうっと温かい。
朋也くんの部屋は、陣ちゃんの焦げた匂いがしない。
朋也くんは、あたしに何度も好きだと言う。陣ちゃんはめったに、そんなことを言わない。
あたしが朋也くんを好きだと思うのは、きっと陣ちゃんと違うから。いつも陣ちゃんを基準に、物事を考えていた自分に気づく。
…陣ちゃん。
初めて自分から、朋也くんにキスをした。いつもするような、触れるか触れないかの、小さなキスを。
あたしの基準はいつだって陣ちゃんで。言わなくてもそのことを、朋也くんはわかってた。
もう終わりにしよう。
そう言った時、涙が出た。いつも笑顔が似合うこのひとに、こんな悲しい顔をさせているのは、紛れもない自分だった。
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