死んだ大好きな君を3月14日までに救いたい


 帰りのホームルームが終わり、窓の外を眺める。

「雨降ってきたね〜」

 声をかけてきたのは、親友の奥田梨花だ。
 地毛の茶色い髪の毛先をくるくるしたあと、美桜の机に両手を乗せる。
 
「ね。これ以上強くならないといいけど」
「美桜、どうしたの? なんか今朝からそわそわしてるけど」
「え?」
「親友なめんなよ〜。美桜のことはお見通しだから。白谷となんかあった?」
「り、律と? なにもないよ」

 梨花には悪いが、美桜は好きな人に一番に好きと伝えたいと考えていた。
 なので、梨花には告白した後、すぐに伝えようと思っている。
 もちろん結果も合わせてになるけれど……。

「え〜。まあ、話してくれるまで待つけどね。てか、今朝もすごかったね」
「何が?」
「白谷がもらったチョコの量だよ! 今年は後輩の分も上乗せされて、机の上だけじゃなくて下駄箱まで詰まってたよ!」
「ああ」

 去年は同級生と数名の先輩からのチョコだったが、今年は後輩たちのチョコが増えたので、量は2倍ほどだった。
 今朝、一緒に登校して下駄箱を確認したので美桜もその量には驚いた。

「今年は勝者がいるかねえ〜」

 梨花はニヤニヤしながら美桜を見た。
 美桜は「さあね?」ととぼけてから帰り支度を始める。
 緊張からか、手にじんわりと汗をかいている。
 その緊張が誰にも伝わりませんようにと震えそうな手を必死に動かした。

「おーい! 桜庭!」

 教室の入り口の方から声がする。
 声の方へ顔を向けるとそこには律が立っていた。

「フフッ、噂をすれば」

 梨花が小声で反応する。
 なんで律が……?

「桜庭! 白谷が呼んでるぞ」

 美桜を呼んだクラスの男子の声を聞き、クラスメイトの女子全員が美桜を見た。
 最悪だ……。
 教室には来ないでって言ってあるのに……。
 クラスの女子たちの痛い視線を受けながら、足早に教室を出る。
 そして、急いで律の元へ向かった。

「律……! クラスには来ないでって言ったのに」
「ああ、悪い。ちょっとこの後用事ができて、先に帰ってって言いにきたんだ」
「……え」

 美桜の心臓がドクンと跳ねる。
 身体全身が心臓になったように、心音しか聞こえなくなりそうだ。
 もしかして、誰かと予定が入ったってこと……?

「……用事って?」

 美桜は恐る恐る質問した。
 震えそうになる手をぎゅっと握る。

「あー。ちょっと」

 濁した律の回答が胸に突き刺さる。
 ここで律を別の女子の元に行かせてしまえば、自分は告白する前に振られてしまうかもしれない。
 決死の覚悟で、美桜はもう一度質問する。

「言えない? 大事なことなの?」
「ああ。俺にとっては大事なことで。でも用事が済んだらすぐに美桜ん家に行くから」

 ああ。
 きっと女の子だよね。
 大事な用事かあ。
 一生懸命、チョコ作ったんだけどなあ。
 ショックだな……。

「美桜? 聞いてる?」

 律に顔を覗き込まれそうになって、美桜はいつもの笑顔を作った。

「あ、うん! ごめん!」

 振られる前に身をひこう。
 そうした方が律のためだよね。

「終わったらすぐに向かうから……」
「ううん! 私の話は大したことないし!」
「いや、その……」
「大丈夫。明日でもいいから。じゃあね」

 美桜は踵を返して自分の席に戻る。
 そして、スクールバッグを手にすると駆け足で教室を後にした。

「美桜!」

 背中越しに梨花の声が聞こえたが振り向かなかった。
 涙がこぼれ落ちないように必死に唇を噛んだ。
 自分の片想いはこんなにあっけなく終わるのだ。
 それもそうだ。
 ずっと幼馴染という立場にあぐらをかいていたのだから。

 下駄箱を出た瞬間に瞳から涙がポロポロとこぼれ落ちた。
 美桜は、雨が降っていてよかったと雨の日を喜んだ。