死んだ大好きな君を3月14日までに救いたい



「お、おはよ!」

 美桜が玄関を飛び出すと、律はいつも通り「ああ、おはよ」とそっけなく返す。
 やっぱり脈なしか……。
 でも言うって決めたんだから、当たって砕けろだよね。
 いつも通りの私立白豪学園までの道のり。
 コンクリートの道も今日は何だかキラキラ輝いているように見える。
 道路が応援してくれているような気がする……!
 今日は、どう転んでもきっと忘れられない日になるーー。

「今日さ……」

 律が話しかけてくるのは珍しい。
 どうしたのだろうと美桜は律の顔を覗き込む。

「ん? 何?」

 美桜と律の視線がパチリと合うと、律はあからさまに視線を外した。

「えっと……今日の放課後。学校じゃなくて、美桜ん家に行くのでいい?」
「え?」

ーードキドキドキドキ。

 久しぶりに"美桜"と呼ばれて胸が高鳴る。
 中学に上がってから、美桜と呼ばれる機会は少なくなった。
 クラスメイトの男子は、「桜庭さん」と呼ぶし、律は「おい」とか「ねえ」とか、そんなんばっかだったから。

「話しするのは、学校でも大丈夫だけど」

 放課後、美桜は学園内の人気のない場所で律と話そうと考えていた。
 だから、学校でも渡せるように美桜のチョコはカバンの中にある。

「俺は、家の方がありがたいんだけど」
「あ、うん、うちでいいよ。パパもママも今日は遅いから」
「じゃあ、学校終わったら一緒に帰るか?」
「!?」

 朝、隣の家に住む幼馴染の美桜と律が一緒に登校するのは、学園内の誰もが見慣れた光景になった。
 入学式直後はあることないこと言われたけど……。
 でも、帰りは違う。
 普段は、お互い部活があるし、もちろん別々だ。
 それに、最近、同級生の間では、「男女で帰る=付き合っている」という話で持ちきりだった。
 律と二人で帰れば、付き合っているのでは?と騒ぎになるに違いない。
 律もそれを知っていて提案しているのだろうか。

「律がいいなら……」

 美桜は少し小さい声で返す。
 瞬きの回数がいつもより多くなっている気がして、なんだかソワソワした。

「じゃあ、授業終わったら下駄箱集合な。遅れんなよ、遅刻魔」

 律は、美桜のおでこにこつんとデコピンを放つ。

「いたっ! はあ? いつも遅れてないんですけど! 律が早く来てるだけでしょ!」
「今日だけだろ、時間通りに出てきたの。いつも1、2分遅れてるからな」
「私と部屋の時計はぴったりだもん! 律の時計が狂ってるんじゃない!?」
「いちゃもんつけんなよ。さっさと行くぞ」

 律はそう言って美桜の腕を掴む。
 掴まれたところから熱を帯びるように全身が火のように熱くなった。
 きっと顔も真っ赤だ。
 律が振り向きませんように。
 その日の放課後、起きる出来事を知らせるように、遠くの空が薄暗く曇っていたーー。