おしゃれハッカー

 おしゃれハッカーになって見えたのはやっぱり非日常の光景だった。
 床一面にピンク色の液体がこぼれていて、キラキラのデコレーションが壁一面を覆っている。ファンシーな空間だ。

「あれ、なんだか中はキラキラしていて魔法の国みたいねっ!」
 風香ちゃんが嬉しそうにはしゃいでいる。
「おしゃれハッカーはコンピューターウィルスがキラキラとした宝石に見えるらに」
「それだけ敵が近いってことだね。気をひきしめていこう」
 優海さんの言う通りだ。ここから先は危険。
「それじゃあ、マナちゃんと優海ちゃんは宝石を持って、ロジカルマジカルミュージックって唱えるらに」
「わかったよ、らにちゃん」

「「ロジカルマジカル! ミュージック!!」」

 呪文を唱えると宝石が楽器に変わっていく。わたしの武器はマイクだった。ネコミミのついた赤いマイクにピンクのリボンがついている。これで戦えるのかな? マイクで殴るの?
「僕の武器はギターなんだね」
 優海さんの手には紺碧の蝶の形をしたエレキギターが握られている。クールな優海さんにとっても似合う。
「うわっ、なんかレーザーでた!」
 わたしが握っていたマイクの先から赤いビームが出ている。アニメ映画でみるようなビームソードになった。
 優海さんのギターからは蝶の羽のようにビームがでていて、斧みたいになっている。
「でもさ、こんなものを持っていたら捕まっちゃうんじゃないの?」
 銃刀法だっけ、そういうのは子供のわたしでも知っている。銃や刀を持ってうろうろしていたら警察に捕まってしまうという法律……だったはず。
「そのビームはマジカルプログラムで、ふつうの人間には見えないから平気なんだらに。あと、人間を傷つけることはできないらに。対コンピューター専用の武器らにね。ただ、楽器の部分はふつうの人にも見えるらに」
 なるほど、これもマジカルプログラムなんだ。
 刃を壁に当ててみるとするりと透き通ってしまった。これは便利だ。わたしみたいな運動オンチだとどこを斬るかわからない。小さな頃は玩具のステッキを振り回して、よく自分の頭にぶつけていたっけ。

「武器があっても油断したらだめぷに!」
 三人の視線が空中で交わった。準備OK! 扉を開けての合図のつもりでわたしはあごを引いた。一番年上の優海さんが勢いよく扉を開ける。

「おお~っ」
 わたしはおもわずため息をもらした。
 平凡な工場がキラキラで、まるで絵本で見たシンデレラのお城みたいになっている。床はピンクで壁は真っ白。ところどころがデコられ輝いていて、眩しい。

「本ノデータヲ消去シマス」
 あ、学校で先生が使っていた台車と同じ機械だ。あのロボットにこんな機能があるなんて。
「ピピ……消去、消去」
 ウィルスに感染しているロボットがいっぱい工場の中で暴走している。
「あれを止めればいいのよね! とりゃあああっ!」
 いかにも剣道初心者って感じで、わたしは垂直にマイクを大きく振りかぶって上から真っ二つにたたき斬る。たったそれだけで機械はかんたんに停止した。歌わないで済むなら楽でいい。
「なによ、手応えないわね! スクープの臭いがしないわっ!」
 わたしがロボットを停止させる様子をみて風香ちゃんがぼやいた。爆発したりすることもなく、刃は機械をすり抜けている。どうやら中身のプログラムにだけ影響を与えているみたい。だから、すごく地味。まあ、機械を壊すことが目的じゃないんだけれどね。だって悪いのは機械じゃないんだから。

「愛花ちゃん、後ろっ!」
 風香ちゃんが慌てて叫ぶと、優海さんが飛び込んで蝶のギターを振り回し、台車のロボットを停止させた。
「ありがとう! ふたりとも!」
 わたしがお礼を言ったのもつかの間。
「きゃっ! なにすんのよっ! このスケベ! ヘンタイっ!」
 武器を持たない風香ちゃんが何台もの台車から伸びる手につかまって、工場の奥へと運ばれていってしまった。
「大変だよ! 急ごう優海さん!」
 慌てて、二人であとを追いかける。
「今回も数が多いね……愛花ちゃん大丈夫?」
「任せてください!」
 ふたりでアニメや漫画のヒーローみたいにバッタバッタと切り裂いていく。な~んて、わたしはただふりまわしているだけみたいなものだけれどね。
「はい! それよりも風香ちゃんが心配です。急ぎましょう!」

「オイ、キサマラ、ナンデジャマヲスル」
「あなたこそ、なんでみんなが困るようなことをするのよっ!」
 台車に捕まった風香ちゃんが何かをしゃべっている。まだ距離があって、ふたりの会話はよく聞こえない。