おしゃれハッカー

「おはよう」
 いつものように小さな声で挨拶をすると、おはようっ!、なんて大きな声で返事をしてくれる友達ができた。
 ただそれだけなんだけれど、不思議と朝から学校が楽しくなる。とはいえ、わたしから風香ちゃんに話しかけることはない。いつものように紙の本を広げて読書をするだけだ。
「愛花ちゃん! 今日の放課後だからねっ!」
「うん」
 だけれど、問題はその日の5時間目、更衣室で起こった。

「風香ちゃん体育はお休みなの?」
 風香ちゃんが職員室から出てくるところをわたしは見たのだ。体育の授業前ということは休むということなのだろう。他の女子が以前、先生に事情を話して授業を休んでいるのを何度か見た。
「まあ、あれの日でねっ」
 風香ちゃんはひも付きのブラジャーで隠した大きな胸を揺らしながら、ややきつめに見える体操着に着替えている。風香ちゃんは体育の授業は見学なのか。そういう女子も増えてきたな。それにしてもひもブラなんて、風香ちゃんは大人だよ。まだシャツを着ているわたしとは大違い。
「放課後のことだけどさ、体調が悪いなら無理しない方がいいよ」
 わたしは風香ちゃんのカラダを心配して言った。
「そうだねっ、でも、これはあたしたちにしか解決できない事件だものっ!」
 ウィンクで返事をする風香ちゃん。本当に平気なのかな? 現実の女の子はとってもデリケートなんだ。だって、命をつなぐための大切なからだの変化が起こるんだから。
「わたしは、その、まだ……だからさ、痛さとかわからないんだけど、本当の本当に大丈夫なの?」
「平気だよっ。ありがとう、愛花ちゃん」
 お姉さんみたいな風香ちゃん。わたしはそんな風香ちゃんに聞きたいことがいっぱいある。だって、うちはママがいないから、女の子の悩みなんて誰にも言えないもん。
 パパは獣医さんだし、最近は馬の赤ちゃんも無事に生まれたから、医学のスペシャリストかもしれないけれど……やっぱり相談しにくいよね。
「でも、別の日にした方がいいんじゃないかな……」
「うーん、それじゃあ、今日のリーダーは愛花ちゃんにお願いしようかな。編集長代理っ!」
「わ、わたしよりも優海さんの方がいいよ」


「優海さんは公務員だからダメなの。副業禁止、つまり、公務員をしながらアルバイトとかはできないわけ。ま、たいていはあたしたちのことを学校の部活みたいに思っているからそこまで追求はしてこないけれどねっ。お給料も出ないし」
  お、お給料!? 小学生がそんなのもらっていいの?
「お金がもらえるんですか!? おこづかいでもお年玉でもなくて!?」
「何を当たり前のことを言っているのよ。子供だろうがお金は稼げるわよ。子役や読者モデルっているでしょ」
「で、でも、わたしは友達からお金なんてもらえませんよ!」
「それじゃあ、ぐっぴーにしておくわ」

 ぐっぴー、GOOD(グッド) POINT(ポイント)の略。良いことをするとポイントが貯まって文房具や望遠鏡からゲーム機までいろんなものと交換できるJSNのポイントサービスのことだ。
 通信教育のポイントを貯めると景品と交換ができる仕組みに似ている。
「本当に風香ちゃんって頭が良いよね。わたしとは大違い。良いことをしたらポイントが貯まって欲しいものがもらえるなんて、よくそんな便利な仕組みをよく思いついたね」
 良いこと、街のボランティアはもちろん、学校で良い点数をとったり、遅刻をしないだけでもぐっぴーは貯まっていく。でも、どかっとポイントを稼ぐには大会で優勝するとか、テストで100点をとるとか、児童会をがんばるとか、そういう模範的な生徒にならないといけない。
 JSNとぐっぴーは日本中の子供たちの学習意欲を向上させたし、いじめや学級崩壊も減らした。
「いやぁ、時代とマッチしていただけだよっ。大人はがんばっている子供のために税金、つまりお金を使いたいと思っていたんだけど、昔は良いシステムがなかっただけなの。だからねっ、別にあたしがみんなのサンタさんになっているわけじゃないわ。でも、このシステムのおかげで欲しかったピアノが手に入ったとか、パソコンが手に入ったとか、そんなことを言われたらさ、嬉しいよね。努力は報われるんだよっ! みたいにねっ! ゲーム機だって、遊んだ子が将来ゲームクリエイターになるかもしれないしさっ! ま、中には廃校舎を丸ごと借りる権利とかよくわからない商品もあるけれどね」