おしゃれハッカー

 優海さんは相変わらずクールでカッコイイビジュアル系の服装だ。風香ちゃんのお洋服はへそを出した大胆でセクシーでカラフルなフリルのついたキャミソール。すいぶんと大人っぽいお洋服だ。おまけに下も赤やオレンジなど着こなしの難しいひらひらとしたフリルがいくつも重なったミニスカート。小学生なのにそんな恰好が似合っているんだからすごいよね。明るくて都会的な風香ちゃんにぴったりなお洋服だよ。都会のビーナスって感じ。

「ねぇ、何、あの空……スクープの臭いなんてレベルじゃないわよっ!」
 トイレのドアを開けると、周りの暗さに驚いた。そして、窓から空を見ると、そこには紫色の空が広がっていた。
「これ、なんなのっ? この世の終わりみたいよっ!? おしゃれハッカーになるとこんな世界が見えるのねっ!」
 さっきから風香ちゃんが一人でしゃべっている。
「風香ちゃん、わたしだってこんなの初めて見たよ」
「僕の予想だと、相当に危険な何かがこの先にあるんじゃないのかな。この周囲を変えてしまう程の危険が」
 紫色の空に雷で書かれた文字が浮かんでは消えていく、確かにこの世の終わりかと思いたくなるような光景だ。
「見えないものが見えるようになる力なんだよね……ここ、あたしたちの暮らしている世界なんでしょ? とてもそうは見えないよっ。まるでもう一つの世界に入っちゃったみたいっ!」
 風香ちゃんの言う通り。これじゃあ、まるでパラレルワールドとかいう都市伝説の世界だよ。
「マナちゃん、前にコンピューターウィルスを捕まえた時にちょうちょになってたのは覚えているらに?」
「え……あ、そうだ、宝石じゃなくて生き物になっていた」
 わたしは深緑の色をした蝶を思い出して頷いた。
「今のマナちゃんたちは巨大な生き物のお腹の中にいるようなものなんだらに。だから事件を解決すれば空だって元に戻るはずらに」
「でもさ、勝手に会社の中に入ったら、不法侵入っていう犯罪なんじゃないの?」
「とにかく、みんな落ち着いて。もともと人間の目に見える光の波長と違うものが見えているだけで、きっとここは異世界でもなんでもないんだから」
 そうだ、つい最近学んだばかりじゃない。見えている世界は違うんだって。やっぱり、優海さんは冷静で頼れる人だ。
「えええっ、でも、この世界はあれだよっ、前に動画で放送していたAIが見た世界みたいなやつ。ぐんにゃりしていて、ピカソのゲルニカみたいなぶっとんだ世界がそのままある感じよっ」
 風香ちゃんの例えはよくわからないけれど、ピカソっていう天才画家(てんさいがか)のことなら少しだけ知っている。物事をそのまま描くんじゃなくて、なんかこう、子供にも描けそうな不思議な絵を描く人。今目の前に広がっているのは、絵の中に入ってしまったかのような世界。
「もしかしたら、天才って言われているような画家にはこういう世界が見えていたのかもしれないね」
 優海さんはそう言うけれど、わたしはこんな世界見たくないよ。天才ってのも大変なんだね。凡人で良かった。
「とにかく、ここにいても始まらない。行こう」
 優海さんを先頭にして風香ちゃんがあとをついていく。
「ちょっと、待ってよ!」
 ひとりでこんなところにいたくない。わたしも慌ててふたりのあとを追った。
「ここに悪さをしているコンピューターウィルスがあることはほぼ確実だけど、人に見つかったらわたしたちが捕まっちゃうんじゃないの?」
 わたしはまだ不法侵入ということが心配。捕まったらパパに迷惑をかけちゃうじゃない。
「そりゃ、まぁ、あたしたちはハッカーだからねっ! こんなことなら予告状でも作ればよかったな」
 風香ちゃんの明るさというか、神経の太さは見習いたいわ。
「わたし、悪さをしたくありません。会社の人と話し合って中に入れてもらえないでしょうか……」
「せっかくここまで来たのに?」
 風香ちゃんは納得していないみたい。
「いや、中にどんな危険があるのかもわからないし、今回は様子を見ただけで良しとすべきだと思う。それに、風香ちゃんなら中に入る手段があるんじゃないかな」
「……JSNの取材ってことねっ!」
 パンっと風香ちゃんは手をたたいた。
「うん、最近評判が悪かったから、良い評判を流したいと思うはずだ。JSNは子供への宣伝効果が高いからね。それに工場の見学は学業の一環だろ」