おしゃれハッカー

 わたしの体温がぐつぐつと上がる。甘くて青春を謳歌しているような男の子と女の子の会話。本でも恥ずかしいのにリアルで覗き見るなんて……。
「これ、犯罪ですよね!」
「違うわよ。利用規約に書いてあるように悪用したり、第三者に漏らしたりはしないわ」
「わたしが第三者なんじゃ……」
「なに言ってるのよっ。あなたも仲間でしょ」
 そうかもしれないけれど、他人の秘密をのぞくなんて気が引けるよ。

「風香ちゃん、ごめんなさい。わたし、仲間にはなれません……」
 風香ちゃんはわたしの前に歩みだして、手を合わせた。お願いをする時のポーズだ。
「愛花ちゃんが優しい子だってことはわかったよっ。でも、こういうことはどこの会社もやっていることなんだよっ。ネットを使う限りは避けて通れないことなんだから。中には国家ぐるみで情報を集めたり、工作しているようなところもあるわっ。でも、あたしたちは違うっ。それは信じて欲しいのよっ。わたしたちはみんなを守るために情報を集めているんだからっ」
「……でも、のぞき見るなんて……それが良いことなのかよくわかりません」
 わたしは一人で編集部を飛び出すと並木道に出た。もやもやとしたよくわからない気持ちが胸をおおう。何をしているんだろう。謝らなくちゃ……でも、何を謝るの? 論理的に考えても答えは出ない。だから、人とつながるのは苦手だ。
「待ってよ愛花ちゃん!」
 優海さんがわたしの腕をつかんだ。
「よかったら、何が嫌だったのか話してくれないか?」

「えっと、それは……」
「ゆっくりでいいからね」
 優海さんの冷静で優しい声。おかげで少し呼吸が落ち着いてきた。
「はい、ありがとうございます。あの、わたし、小さい頃からネットでいじわるされていたんです……陰でこそこそあることないこと言われて、それがとっても辛くて」
 自分でもなんでこんなことを相談できてしまうのかわからない。優海さんだからなのかな。警察官だから裏切らないって安心しているのかもしれない。わたしは……普段から地味で目立たないようにしてるのは……そういういざこざに巻き込まれるのが嫌だからなのかもしれない。目立たなければネットでいじめられないもん。

「そういうのは無視した方がいいんだよ。気にすることないさ。でも、辛いよね、陰でこそこそ悪口を言うなんて卑怯だと思うよ」
 優海さんは真剣に話を聞いてくれるのね。だから、頭で整理できていないことが次から次へと口から出てくるよ。聞き上手ってこういう人のことをいうのかな。
「わたし、友達だった、いえ、友達だと思っていた女の子からも……ネットで悪口をいわれていることがわかるんです。風香ちゃんほどじゃないけれどPCは得意ですからね。知らなければよかった……」
 わたしたちはパソコンを使っていろんなことを調べることができる世代なの。便利な反面、見たくないものまで見えてしまう。
「あたしたちはそんな悪いことはしないわ! 少しは人を信じなさいよっ!」
 風香ちゃんがわたしの背後から思いっきり抱き着いてきた。
「いい? 愛花ちゃん! あたしをそんな連中と一緒にしないでよね!! それにネットは人と人とがつながれる素晴らしいところもあるんだからさ!」 
 素晴らしいところって……そんなのあるのかな?
「これをみてよ! ふたりの四葉駅前のライブの書き込み!」
 そこには何百、何千の励ましの声があった。信じられない……あ、そうか、学校でも話題になっていたくらいだもんね。