おしゃれハッカー

「こ~らっ! サボっちゃだめでしょうが!」
 頭の上から雪村先生の声がした。
「ごめんなさい」
「いや、別にいいのよ。愛花さんが友達と話してるの初めてみたから、嬉しくなってね」
 ともだち? わたしと風香ちゃんが友達!? そんなわけない。だって釣り合わないよ!
「なんだ、あなた、もしかして友達があたししかいないの?」
 えええええっ!!!! わ、わたしのことを風香ちゃんが友達っていった!!!!!
「ふーんっ、こんなにスクープの臭いがするのにねっ! 良かったら今度遊びましょうよっ!」
 信じられない。嬉しいよ。
「ところで、愛花さん?」
 雪村先生はつくり笑いをしている。この顏は何かを生徒にお願いする時の顏だ。
「5年1組の結城翔(ゆうきしょう)くんが貸し出し期限を過ぎても返却に来ないのよね。それを伝えてきてくれないかしら」
 なんだ、思ったよりも普通のお願いだったわ。
 それにしても結城くんか……あの子苦手なんだよね。同じ保育園でちっちゃい頃のわたしはよく泣かされていたっけ。あれから同じ河合井(かわいい)小学校に進学したけれど一度も同じクラスになったことがない。
 小学生になってから結城くんが女の子をいじめてるなんて噂も聞かないし、少しは大人になったってことかもしれない。
「いいですよ。それじゃあ、教室に行って聞いてみますね」
「いなかったら明日でもいいからね!」
 雪村先生はそう言ってくれたけれど、嫌な用事はさっさと済ませたかった。
「なんだかマナちゃん浮かない顏してるらに」
「あいつは宿敵なのよ」
「しゅくてき? どういうことらに?」
「そう、保育園ではあいつ、わたしにイタズラばっかりしてきたんだから!」
「そんな悪い奴なのらにか! 許せないらに! よくもボクのマナちゃんを!」
「もう、らにちゃん、ケンカはダメだよ。それにもう過去の話だから……」

「へぇ、小さい頃に結城くんが愛花さんにちょっかい出してたんだ」
 雪村先生がカウンターから身を乗り出してきた。
「それってさ、愛花さんのことが好きだからじゃないの? よく言うじゃない。男の子は好きな女の子にいじわるするって」
「そんなわけないですよ、なんで好きな子にいじわるをするのか、論理的に考えてわかりません」
「ふーん、理屈じゃないのよねぇ」
 いししっ、と意味ありげに雪村先生は笑っていた。
 好きだからってイタズラされたり、からかわれたらたまらないわ! そういうのわたしには理解できない! やっぱり男の子は紳士でないとね。例えば優海さんみたいに……って、相手は女の子だよ!
 教室の前でうろうろと頭をかかえている歩き回っていると、同じ図書委員で5年1組の速水はやみさんが、どうしたの?、って声をかけてくれた。違うクラスはなんだか入りにくいよね。声をかけてもらえてよかったわ。
「結城翔くんはまだいますか?」
「学級委員の結城くん? もしかしてファンですか?」
 ファン?
 どういう意味かしら。もしかして女の子に人気あるの?
「いえ、図書委員の用事で来ただけです」
「窓側の一番後ろが結城くんの席だよ。頭も良いしスポーツも万能で女子に人気あるんだ」
 ふーん、人って変わるものね。
 あ、見覚えのある顏! 朝に会った男の子が結城くんだったのか……背が高くなっているし、声変わりもしているから全然気が付かなかったよ。あいつはわたしのことに気づいていたのかしら。もしかしたらもうわたしのことを忘れているのかもね。そうそう、それでいいのよ。
「どうした、愛花」
 うっ、こいつわたしのことを覚えてる。 それも、まさかしっかりと下の名前まで覚えていたとはな。ダメダメ。弱気になるなわたし! がんばれ! ちょっと話すだけなんだから。クラスも違うし、気にしない、気にしない!
「あのね。わたしは図書委員なんだ。それで本の返却期限がきたことを伝えに来たの。忘れていたらちゃんと返してね」
「え、おかしいな? それなら返却したはずだけど。貸し出しカードを見てみろよ」
「あれれ、先生の間違えかな、本のタイトルを教えてくれる?」
 何故だか急に顔を真っ赤にする結城くん。
「言ってくれないと調べられないよ」
「う、うるせぇ! あー、漫画の描き方ってやつだよ。あれ、尊敬してる漫画家が書いていてさ、それで借りたんだよ」
「スクープの臭いねっ!」
 どこからともなく現れた風香ちゃん。
「あなたも、この本を借りようとしていたなんて、たしかにこの本は少女漫画の大御所、武田菜穂子(たけだなおこ)先生の書いたものよっ!」
「でかい声でいうなよ!」
「まあまあ、それより愛花さん、彼は嘘をついていないわ。貸し出し記録のスタンプに彼が返却した記録があるもの」