おしゃれハッカー

「マナちゃん! 待ってらにぃっ!!」
 ぴょこぴょこと飛び跳ねてわたしの後ろをついてくるらにちゃん。
「なんだこいつ?」
「あ、らにちゃん! あぶない!」
 あぁ、遅かったか。すまし顔の少年の足にらにちゃんがぶつかった。らにちゃんはぷにょんと勢いよく弾んで廊下に転がり目を回している。
「ごめんなさい。らにちゃんもだいじょうぶ?」
 わたしがお辞儀をして謝ると、男の子は、俺は痛くないぜ、って言って、足元で転がっているらにちゃんを片手でひょいっと持ち上げた。
 同い年の男の子は子供っぽくて乱暴なところがあるから、らにちゃんがちょっと心配。
「これ、おもちゃか?」
「その子はらにちゃん。わたしが作ったロボットで、わたしの友達なの」
 少年はあっけにとられたような表情をしている。ロボットが友達だなんてよっぽど驚いたのかしら。青春って言葉は青い春と書くけれど、友達の少ないわたしにはあんまり縁のない言葉だもんね。いいもん。わたしの友達は本とロボットなんだ。それに優海さんやヒカリちゃんとも知り合えたから……。とはいえ、まさか5年生のわたしがヒカリちゃんのいる2年生のクラスに行くわけにもいかないし、優海さんにいたっては学校が違う。
「おまえ、こんなロボットが作れるのか?」
「うん、いちおうね」
 男の子は感心したようにぷにちゃんをじろじろと観察していた。
「すげぇじゃんか……」
 あはっ、らにちゃんがほめられると自分のことみたいに嬉しくなっちゃう。
「えへへっ、ありがとう! よかったね! らにちゃん」
「ま、らにの魅力は世界一、肉球を超えるらに! このキュートでぷにぷにのカラダにみんないちころだかららに!」
 あらあら、いつの間にか、らにちゃんも元気になっていたみたい。
「でもさ、らにちゃんもニャーちゃんの肉球の気持ち良さにはかなわないかもよ~」
「そんなことないらに! そんなこと言うとマナちゃんにはぷにぷにさせないらによ!」
「あははっ、それは困るかも」
 わたしはらにちゃんをそっと肩に乗せると教室へ向かった。
 さっきは急いじゃってごめんね。今朝はパパがお仕事で家を留守にしていたから誰も起こしてくれなくて、寝坊しそうになったんだ。
「相変わらず変なやつ……ぬいぐるみじゃなくてあいつを褒めたんだけどなぁ」
「え?」
 何かを少年から言われたような気がしたけれど、振り返るともういない。あの子も急いでいたのかな。スポーツバッグを持っていたし、きっとなにか運動クラブの朝練でもしているのね。努力家だな。ひとりじゃ遅刻しそうになるような、そんなわたしには毎日の朝練なんてとてもできないや。

「おはよう」
 と小さな声で挨拶をするけれど、誰からも返事はない。でも、いじめやシカトではない。たまに同じ班の女子なんかが返事を返してくれるので、そういう時は挨拶してよかったなって思う。

「昨日の動画見た?」
「JSNのこと? 見た見た!」
 JSN(ジュニアスクールネットワーク)のことは知っている。学生向けのSNSだ。
「四葉中の才賀(さいが)くんいいよね。四葉中1番のイケメンで運動神経抜群、おまけに東大合格確実だって言われているし、医者の息子なんでしょ」
「そうそう、一番と言えばぁ、この学校の一番人気は加奈(かな)ちゃんだよね、読者モデルしてるしさ」
 女子グループの会話を聞きながら、学習用端末の入ったランドセルから朝読書用の紙の本を取り出す。
 本の香り、表紙が手になじむ感覚……大好き! それに、本を読んでいればグループに入っていなくてもひとりぼっちの想いをしなくていいから助かるのよね。
「わたしが一番なんて、やだーっ、そんなことないよ! それに美穂(みほ)みたいにイケメンの彼氏もいないしさ。あ、昨日の夜配信されたんだけどさ、JSNに超イケメンがいたの知ってる!? 一目惚れしちゃったかもっ!!」
 大げさに否定するけれどまんざらでもなさそうで、どこか声も弾んで聞こえた。
「あーこれから流行りそうだったよね! しかもこの近所でライブしたらしいじゃん! ばったり会えたりするかも! 運命の出会いみたいな!」