おしゃれハッカー

 月? 光? そして二つのお店の違い……。
「論理的に考えて、お店の灯りが違うのね!」
「正解、コンビニはLEDの光なんだ。この光は虫にはほとんど見えない。一方の古本屋さんは蛍光灯だね」
 そういえばパパに聞いたことがある、動物たちは人間とは見ている世界が違うのだって。人の見える光を可視光っていうそうだ。うさぎさんみたいに人間に聞こえない音が聞こえる動物、犬みたいに人間にはわからない微かな匂いをかぎわける動物がいるのよね。

「もしかしたら、あのロボットは、虫と同じように人間には見えない宝石の光に反応しているのかも。だから関係のない男の人が襲われたんじゃないかしら」
「なるほどらに、って、マナちゃん! ロボットがマナちゃんの方に向かってきたらに!!」
 えー、なんでわたしを襲うんだろう。わたしって宝石なんて身に着けていないよね。他にキラキラしているものなんていっぱいあるのに。わたしが持っているものに反応しているのかしら。
 虫型ロボットはわたしの鞄から鉛筆をつかむと大事そうに抱えて運び始めている。え、えんぴつ!?
「なんで鉛筆なんだろう? 飴玉なら美味しいし宝石みたいにキラキラしているのに。キラキラしているものならなんでもってわけじゃないみたい」
「ふたりはダイヤモンドがなにから出来ているのか知らないんだね」
「そんなの考えたこともないらに」
「ダイヤモンドっていうのは、炭素っていうとっても小さな原子からできているのさ。ちなみに炭素でできた同じものといえば鉛筆の芯だね。ノートに文字を書く真っ黒なもの」
 優海さんって博学。
「でも不思議。キレイで硬い宝石になったり、真っ黒でやわらかい芯になったり。それに鉛筆ならわたしのおこづかいでも買えるけれど、ダイヤモンドなんてとても買えないもの」
 この時、わたしってばピカーンって、ひらめいちゃったんだ!
「わかった! 論理的に考えて、ロボットは炭素を集めているってことなんじゃないかな。興味深いわ!!」
「なんで敵に感心しているらに?」
「あ、いや、応用したら街のゴミ拾いとかに利用できるかなって! 新しい技術を考えるとわくわくするじゃない」
「なるほどね。愛花ちゃんの発想は面白いね。推理もエクセレントだ」
「えへへ、それほどでもないよ。悪いのはロボットじゃない。それを使う人間のこころなんだよ。使い方次第ってこと。人のものを盗むなんて許せない。それも大事な婚約指輪だなんて! 大問題よ!」
 宝石店の周りには警察官が大勢いて、とてもじゃないけれど入れない。

「山路(やまじ)警部! このままじゃどんどん宝石が盗まれちゃいますよ! 発砲の許可をください!」
 口髭を生やした大柄な警部さんとその部下細身の男性が宝石店の前で口論をしていた。
「それはいかん。なんとしても捕まえるんだ。それに、あれだけ素早く飛び交う相手を拳銃で命中させられると思うか?」
 そう言われると全身を覆うような盾を構えた若い警官は肩をすくめた。
「失敗したら上に責任がいくから、決断が遅いんだよ」
 優海さんが耳元でこっそりと事情を説明してくれた。大人の世界って大変ね。
「しかし、ロボットの相手なんてマニュアルにないのですが……」
 そう小さく愚痴をこぼすのは仕事熱心な若い警察官によるささやかな抵抗なのかもしれない。なんとかしたいけれど、それをするには上司の決定がいるのだから。
 
「わたし、この宝石店がなんで狙われたのかわかるわ。きっと、完全に電子化しているんでしょう」
「その通りだ。おまけに会計はカードのみ。なんでわかったんだい?」
「あのロボットは炭素に反応しているんでしょう。でも、そこまで複雑なロボットでもないみたい。わたしの鉛筆を間違えて持っていっちゃうんだもの。だから、きっとこのお店は、鉛筆のようなアナログなものがないところなのかなって思ったの。それにそういうお店ほどサイバー攻撃しやすいじゃない。電子化されたシステムは、ハッキングすれば解除することもできる。でもって、そのハッキング先もニャーちゃんの時みたいに海外からで、日本の警察じゃあどうにもできないってことなんでしょ」
 推理はしたものの、すっきりはしない。だって、悪さをしている犯人を捕まえられないんだもの。こちらからは何にもできない。ただ黙ってやられているだけなんだよ。それって、自分が損しているわけじゃないのになんだか悔しい。
「そうだよ。僕らでは解決できないと想定していた。ロボットに宝石を運ばせてどこかで回収する、なんていうのは想像もしていなかったけれどね……今回は僕の力ではどうにもできない事態みたいだ」