おしゃれハッカー

「はぁはぁ、プロポーズしようって用意した婚約指輪を……あの変なロボットが、ふぅ、盗んで、いってしまって……」
 よっぽど急いで追いかけたのか、息をきらせながら優海さんに答えている。優海さんは無線機で仲間に連絡をとっていた。
「こちら、千里です。宝石店に向かっている途中、窃盗ロボットの被害にあった男性と遭遇……」
 警察もののドラマとそっくりなセリフね! なんか本家をみると、おお、って思わず感激してしまった。
「あの、わたしが取り返してきます!」
 男の人は黙って、まじまじと上から下までわたしの恰好を見ている。そうだよね。真っ白いマントにおしゃれな制服というかドレス姿だもの。警察にしては派手すぎるわ。
「この子はハッカーなんですよ。コンピューターの専門家なんです。ね?」
 いじわるっぽい目でわたしを見ている。う、ここでそんなおだてるようなことを言われるとは……。
「驚きましたよ、アイドルが一日署長でもしているのかと思いました。わたくし、記者なもので」
 えええ、アイドルだなんて! そんなこと言われたの生まれて初めてかも。でも、優海さんは笑いをこらえるのに必死みたいだ。
「まあ、おしゃれハッカーらしいですからね」
「おしゃれ……ふむ、そんなハッカーがいるんですか。聞いたことないな、それにしても美男美女の組み合わせですねぇ」
 優海さん、黒いジャケットとベージュのパンツのせいか男性に間違われている。確かに美男子。女だって知らなければ、きっとわたしは惚れてるよ。だって、外見だけなら超イケメンだもん!
 凛々しい刑事姿は、まるでお姫様を守るナイトみたい!
「きっとわたしが婚約指輪は取り返して見せます!」
 事件を解決しないと! 遊びに来たんじゃない。ナゾを解くためにここに来たのだ。
「ああ、僕もあとから行く。この辺はもう警察が包囲しているけど危険がないわけじゃないんだ。それにしてもあんな小さなロボットだったとは思わなかった。小さくても油断したらだめだよ。どんな武装をしているかわからないんだから、最悪の場合、機関銃のような武器を持っている可能性もある。そんな時はすぐに逃げるんだよ」
 わたしとしては凶暴な怪獣ロボットの方が嫌だけどな。ま、流石にそれはないか。って、それにしても機関銃ってマジ? 論理的に考えてありえるだけに恐ろしい。ああいう飛行ロボットを改造して戦争の兵器にしている、なんて話なら、わたしでも聞いたことがある。

 四葉銀座ジュエリーと書かれたビルの周りにはすでに警察官が大勢いて、それをとり囲むかたちで、蝶の姿をした飛行ロボットが指輪を抱えて、いくつも宝石店の周りを飛んでいた。これが全部ハッキングされているなんてぞっとするわね。
 警官は警棒と盾で応戦するものの、なにしろ相手の数が多すぎる。それに、小さすぎて攻撃が当たっていない。
「マナちゃん、どうするらに?」
「虫には虫よけスプレーがあるみたいにあいつらの注意をひきつけられたらいいんだけど……あ、そういえばさ、夜のお店を観察していて気付いたことがあるの」
「なにらに?」
「ほら、あそこの古ーい昔からやってる古本屋さんには虫がいるのに、こっちの新しいコンビニには虫がいない」
 虫とは本物の生きている虫のことだ。
「よくそんなささいな違いに気づいたね、愛花ちゃんの観察力には警察の僕でも驚かされるよ」
 優海さんの声。本当に神出鬼没だ。
「それじゃあ、ヒントをあげようかな。虫は夜になると月の光を頼りに飛んでいるんだよ。そこまでわかれば二つのお店の何が違うから虫がいるのかわかるだろう?」