「……いるよ。彼氏」
嘘だった。
どうしてそんなことを言ってしまったのか、自分でも口にしてから驚いた。
でも、この〝特等席〟から見える世界があまりに残酷すぎて、そう言わずにはいられなかったんだと思う。
「どんな人? かっこいい? 職業は?」
やっぱり、萌は容赦がない。
安易についた噓からは、もう後に引けなくなっていた。
「ふつうの人。公務員」
そう適当に流したつもりだったのに、なぜか萌の目の色が急に変わる。
「うそっ、公務員?」
腕を掴まれ、顔が引きつる。
「なに」
「安定の公務員。婚活市場、最も需要のある職業でしょ」
「だから……?」
「お願い。今度だれか紹介して!」
あまりの勢いに、冷や汗が止まらなくなった。
はしゃぐ声にワインをひと口飲んで、苦笑いで取り繕う。
最悪だ。
口の中が乾いていて、やけにアルコールが強く感じた。

