「自衛官は、お嫌いですか」
彼の問いかけに、私はどう答えたらいいかわからなくなった。
でも、嫌でも思い出してしまう。
あの日、電話機を握りしめながら鳴り続けていたコール音を——。
「命を守る立派な仕事だってわかってはいるんです。だけど、父との間にいい思い出がなくて。……たぶん、苦手です」
それが、今の私にできる精一杯の回答だった。
視線を落としたまま、数秒の沈黙がピアノの音と混ざり合う。
親友の優里にだって、ここまで素直に打ち明けたことはない。
それなのに、今日はじめて会った彼にこうもありのままの感情をさらけ出しているなんて、不思議でたまらない。
今日は少し飲み過ぎただろうか。
「話しづらいこと、聞かせてくれてありがとうございます」
私の手に触れながらそう言う彼の言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
もしかしたら、彼が放つ空気感がそうさせたのかもしれない。
すべてを受け止めてくれるような気がして、つい気が緩んでいた。

