都内のビジネス街に建つ高層ビルの十階。
大きなガラス張りの窓から見える景色はあいにくの雨模様。
大手外食チェーン企業のメニュー開発部で働いている私は、夏のキャンペーンの準備が佳境に差し掛かり、毎日残業が続いていた。
結婚式から数日が経ったが、毎日忙しなく一日が終わるおかげで余計なことを考えなくてすんでいる。
あとは、彼女さえ例の約束を忘れてくれていればいいのだけれど。
そう都合のいいことはない。
「彼氏と話せた?」
給湯室でコーヒーを入れていたら、今日も萌が隙を見たかのように声をかけてきた。
「ああ、ちょっとバタバタしてて……」
「もう、合コンの話忘れてないよねえ。みんな楽しみに待ってるんだから」
すべて、その場のノリで言った冗談であってほしかった。
それなのに、いつの間にか合コンを開くなんて大掛かりなことになっていて、勝手に他の同期たちまで巻き込んでいた。
私のついた噓が、知らないうちにひとり歩きしていく恐怖。
「彼も忙しいみたいで。最近ゆっくり話せてないんだよね」
私は存在しない架空の恋人を頭に浮かべながら、顔を引きつらせた。
「そっかあ。じゃあ、落ち着いたらちゃんと話しといてね!」
そう言い残して自分のデスクに戻っていく萌。
たまらず肩の力が抜けて壁にもたれながら、のらりくらりと誤魔化すのもさすがに限界に感じてくる。
やっぱり、やるしかないか。
スマホを開き、ずっと無視し続けていた十数件もの通知を見つめ、息を吐く。

