上書きされたファーストキス〜変わらない距離の、その先で〜



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葵の家は、おばあちゃんが華道の家元をやっていて、そこそこ古い家柄だ。

葵のお母さんは葵を産んでしばらくしてから亡くなって、葵のお父さんは今この家にはいない。
存命だけど、婿入りだったらしく、おばあちゃんと反りがあわなかったそうだ。

おばあちゃんの期待は、必然、残された孫──葵と、葵の七歳上のお姉さん──椿(つばき)さんに向かった。

「椿ちゃんがいてくれたお陰で、僕はすごくラクができてる」
って、葵は言ってたけど。

この広い家で葵に関心を持ってくれてるのは、家政婦のえつさんだけっていう事実を知っている私からすると、その言葉は少し、切ない。

「楓(かえで)が幼なじみで良かったよ。助かること、多いし」

茶褐色の猫っ毛のような髪と、長いまつ毛に縁取られた大きな栗色の瞳。体つきも華奢(きゃしゃ)で、私のほうが身長高いし。

こんな男が好きだなんて、私の扁桃体はどうなっているんだろう?

えつさんが持って来てくれた救急箱から軟膏を取り出し、溜息をつく。

それから、葵の綺麗な顔に指を伸ばして、今度は感嘆の溜息。
……なんで現役男子高校生のくせして、こんなキメ細かい肌してるかな。

今をときめくアイドルですら瞬きひとつで蹴散らせるくらい可愛い顔をしているくせに、葵はたびたび、その口もとにアザをつくっている。
あきらかに、殴られた痕(あと)を、だ。

それが、今回のような葵の保身なき行動による結果なのは、言うまでもない。