上書きされたファーストキス〜変わらない距離の、その先で〜

「……いま、取り込み中だ。出てけ」

「でも、葵、イヤがってるし。無理やりって犯罪だよ? 分かってると思うけど」

私の言葉に、あからさまに頬をゆがめ、葵を床に押し倒したまま男が言う。

「同じこと二度も言わせんな。失せろ!」

唾棄(だき)せんばかりだ。
……あぁ、もう、面倒だな、ホントに。

仕方なく手にしたトレイを安全地帯──白基調の壁に囲まれた殺風景な部屋に不釣り合いの、アンティークテーブルに運ぶ。

葵が他の自室から必要に応じて持ち込んだものだから、なんだかすごく場違いな感じなんだよね。

ま、私は嫌いじゃないけど、似合わないからよしなって、このあいだ教えてあげたんだけどな。

「聞こえねーのかっ」

中身のない男が好きだよね、葵って。趣味悪いよ。

唯美主義だかなんだか知らないけどさ。理解できない、私には。

凹凸のない身体と、10代女子の平均よりも高い身長。そのせいで男子に間違われないようにと腰近くまで伸ばし、ひとつに結(ゆわ)いた髪を片手で払う。

『幕末の美形剣士みたいで素敵です♡』
なんて後輩に言われたりもして、短くしようか迷ったけど、無いよりマシだ、絶対。