上書きされたファーストキス〜変わらない距離の、その先で〜

「なんだよ、それ……!」

さすがの葵も、ムッとした顔でこちらを見上げてきた。私は横を向いた。

もうこれ以上の会話はムダだと思ったのか、葵は大きな溜息をついた。

私も負けじと、おおげさな溜息をついてみせた。

*****

こういう時、つくづく『近所の幼なじみ』は、損だと思う。

帰る方向が一緒で、しかも、お互い妙な意地があって、違うルートで帰るとか寄り道をするとか。
そういう、相手を自分の視界に入れない方法をとる気にはなれないのだ。

沈黙のなか、一定の距離間で、葵と同じ道を歩いて行く。

「楓」

「……なに?」

「さっき、僕のこと心配してくれて、ありがとう」

葵の屋敷(いえ)の門前、こちらに背を向けたまま葵が言った。

私は、自分の耳を疑った。
──馬鹿みたいだと思った。

確かに葵は、くだらない気まぐれをおこして、私をからかったのかもしれない。
だけど、肝心なところでは、いつも気持ちをくれていた。

──たとえそれが、私の望むカタチの『想い』でなくとも。

葵のなかで私が大事にされていること、それはまぎれもなく感じられていたはずなのに……。

つまらない意地を張って、傷つけられたといつまでも引きずっていては、この関係でさえ、失ってしまうかもしれない。
それだけは、絶対に嫌だと思った。