上書きされたファーストキス〜変わらない距離の、その先で〜

けれども私は、そいつの腕をつかみ寄せ、今後いっさい葵に手出ししないという約束をさせる。

機械仕掛けの人形みたいにコクコクうなずく男から、投げるように手を放した。

情けないほど手と足をバラバラに動かし、去って行くそいつの背中を見送る。

ホッとしたのと同時に気がゆるみ、片膝をついた。

「かえでっ……!?」

視界が、ぐわん、と、揺らいだ。

葵が私の側に、駆け寄ってきたのが分かる。

葵の『本気』は守れなかったけど、『葵自身』は護れて、良かった……今回は。

気を失う寸前、葵のごめんという声と共に、抱き止められたのが分かった。

そして、覆いかぶさる顔から、あたたかな滴が落ちたのを感じた。

*****

「前に楓にいわれた言葉、返すからね、僕。
……楓、自分の身体、大事にしなよ」

左肩の亜脱臼の診断と処置、痛み止めを打ってもらって帰った家の自室。

クッションに寄りかかり、ベッドの上で半身を起こした私に対し、葵が言った。

あの後、救急車とウチの父さん、それから兄さんにまで連絡をとってくれたらしい葵のおかげで、意識を取り戻した直後、二人にこってり絞られた。……当たり前だけど。

「こんなの、稽古(けいこ)じゃしょっちゅうだし、癖になってんのよ。
別にいいじゃない、生死に関わるわけじゃないし」

肩をすくめかけ、痛みが走る。