上書きされたファーストキス〜変わらない距離の、その先で〜


茉璃は半泣きで私と葵を交互に見比べている。

葵は否定するどころか、隣でくすくす笑いながら、わざとらしく私の肩に頭を預けてきた。

茉璃の剣幕に閉口している私をよそに、葵が急に芝居がかった口調で、しおらしく言った。

「ごめんなさい。ワタシ達、相思相愛なの。あなたも早く、いい人を見つけてね」

声変わりを経てもあまり低くならなかった葵の声は、言い方ひとつで可憐な少女のものとなる。

さらに、私の二の腕に指先をからませ、葵は得意の天使の微笑を浮かべてみせる。

これには、さすがの茉璃も毒気を抜かれたのか、

「そういうことなら……あたし、あきらめます。さようなら、時任先輩!」

などと、悲劇のヒロインを気取って、ちょうどタイミングよく着いたバス停で降りて行く。

……あの子、最後まで葵が男かもしれないって疑わなかったな。

先程までの口調から一転、葵が感心したように言った。

「楓って……昔からモテるよねぇ、女の子に」

「どーせねっ」

そうよ。
私、女の子だけなら、いままでに十数人には告白されたわよ。

ふと葵が、私の機嫌をとるように、いたずらっぽく笑い、こちらを見上げてきた。