上書きされたファーストキス〜変わらない距離の、その先で〜


あの夏の一件の後、私は葵に言ったのだ。
少しでも「コイツやばいかも」と思うような相手にモデルを頼む時は、必ず私に連絡しろって。

だから、私のことを葵が呼びつけるのを本気で嫌だと思ったことはない。
むしろ私を頼ってくれることに安堵(あんど)していた。

付かず離れず──幼なじみの延長線上にある私たちの関係。

お互いの家の行き来も、都合が合えば、食事に行ったり映画を観に行ったりするのも、当たり前だった。

そんなある日の休日、バスの中。

「時任先輩、彼女いたんですね!」

突然、自分の名を叫ばれ驚いて目をやれば、乗客をかき分けながら、ハロウィンクッキーの早川茉璃(まつり)がやって来た。
その視線は、私の隣に座った葵に釘付けになっている。

今日の葵は、ゆったりとした生成りのタートルネックに、細身のデニムというラフな格好で。
ふわふわの癖髪は肩先まであるため、制服を着ていないとますます性別不明になる。
……というより「小悪魔系の美少女」に見えなくもない。

「お付き合いしている人はいないって、みんな噂してたのに……」

「あー、だから、ねぇ」

「男にしか興味ないって言ってたのに……こんなのって、ないっ」

「話、聞きなさいよ……」