上書きされたファーストキス〜変わらない距離の、その先で〜


父さんとの稽古(けいこ)の都合上、放課後は足早に校舎を後にすることにしていた。

「時任(ときとう)先輩っ」

思いつめたような響きの声で呼びかけられ、振り返る。

顔を真っ赤にした女子がつかつかと歩み寄って来て、綺麗にラッピングされた袋を差し出した。

「あのっ……コレ、良かったら食べてください」

オレンジと紫に彩られた柄が目に入り、ああ、今日ハロウィンか……と、思い当たる。

瞬間、

「あたしだと思って!!」

……うん。いや、想いが重いな。それより何より。

「あのさ、私、一応こう見えても女なんだけど」

「知ってます! ここ女子校ですし!」

キッとこちらを見上げ、強い眼差しのまま、彼女が言った。

「でも、好きなんです! だって、そこら辺の男なんか目じゃないくらい、強いし、カッコいいじゃないですか、先輩」

「……ええと。気持ちは嬉しいけどさ」

「じゃあ、あたしと付き合ってください! あ、申し遅れましたが、あたし、一年の早川茉璃(はやかわまつり)っていいます。コレは家庭科部で作ったクッキーで──」

うわ、ハッキリ言わないと駄目なタイプの子か。参ったな。

私は、この高校に入って以来、何度言ったか分からないセリフを繰り返した。

「ゴメン。私、男にしか興味ないんだ」

姿勢を正して、頭を下げる。

……私が好きなのは、幼なじみの葵(あおい)だから。