18
翌日の朝の10時。
既に起きていたダレンは用意されていた朝食も食べ終えて、玄関の掃除も済ませている。ダレンは「出来る限り平常心で居よう」と心を落ち着けながら、邸の中、いつもと同じルーティンで雑務をこなしていた。
〈そろそろ起きてきてもいいと思うんだけどな〉
邸の中、一階で使用人の仕事をこなすダレン。
すると廊下から聞き慣れた声がした。
『ダレン! ダレンなのね!?』
その声が聞こえたと思った次の瞬間には階段から降りてきていた女の子がダレンの胸に飛び込んでいた。金色のロングヘアーの可愛くて華奢な女の子だ。歳は14歳ほどに見えた。服装は今どきのファッションとは違う。黒と白、アクセントに赤色が使われた簡易なドレス、裾には白のフリルが見える。
胸の中の女の子をダレンは既に知っている。
ダレンの顔を見て、心から嬉しそうな彼女「ロザリア・チャペル」は、溢れ出る喜びからダレンに抱きついて離れようとしなかった。
「会いたかった」
「ロザリー。俺も会いたかったよ」
ロザリーは興奮気味にダレンに話しかけてくる。
「ダレンが邸に居るということは、今は2007年なの? ダレン。私は多分、長い間眠っていたみたいで、さっき目覚めたの。でも、まさか、起きたらダレンが邸に居るなんて考えてなかったの」
「落ち着いて。ロザリー」
ロザリーは、はっと我に返って「そうね。ごめんなさい」と言ってダレンから離れた。ダレンは優しく笑って「謝ることでもないよ」と伝えた。
「相変わらずダレンは優しいのね」
「ああ。君の前では優しくなれるんだ」
ダレンは昨日の夜にジェームズから「ロザリーについて」を聞いていた。
『彼女は再び「繰り返す」のです。一年周期で消えて、翌日に一年間の記憶を失い、再び邸に現れる。それは哀しいことかもしれませんが、それがこの森と、この邸の呪いなのです。彼女は既に幽霊です。私は毎年自己紹介をしていますが、彼女は「ダレン・ベイクウェル」との過去は覚えているはずです。あなたは動揺せずに、いつもと同じように業務をしなさい』
ジェームズはそう言っていた。
ダレンは心で思うことがある。
〈彼女の一年間の記憶は消えて、出会う前に戻った。だけど俺は覚えている。これが邸の呪いだとしても、彼女は不幸にならなくていい。彼女が心から望んでいることを、俺は彼女から伝えてもらった。俺はこの邸に留まり、これからも使用人として働く。彼女を悲しませないために。運命が何度も繰り返しても、俺は彼女を守る〉
少し落ち着いたロザリーがダレンに聞く。
「ダレンはこの邸の使用人で合っている?」
「ああ。俺はこの邸の使用人として働いているんだよ。ロザリー」
その言葉でロザリーは再び喜んだ。
「こんな幸せな朝は初めてかも。ダレン」
その時、邸の玄関の扉が「ギイ」っと音を立ててゆっくりと開く。
黒に白のストライプの、リッチなスーツの男。スマートな体型で、綺麗な姿勢で立っている。その顔は厳格で、表情はほとんど動かない。黒い帽子を被った無愛想な男。先日の夜のうちに邸から一時離れていたジェームズだ。
ジェームズはロザリーの前で帽子を取って儀礼的な仕草で挨拶をする。
「はじめまして。ロザリアお嬢様」
「えっと。誰でしょうか?」
「私は新しくやって来た「ジェームズ・ウィルソン」と申します」
「ジェームズ? あ、確か前にダレンから聞いた執事の名前と同じ。ダレン、彼が未来に居ると言っていた執事のジェームズなの?」
「そうだよ。俺と彼は既に知り合っているんだ。だから彼がとてもスマートで頼れる男だと保証するよ。ロザリーも何かあれば彼を頼ってほしい。彼はとても優しいから」
「よろしくお願いね。ジェームズ」
「ええ。では、何かありましたらいつでもお声かけください。ロザリアお嬢様。それでは私は、どこかの部屋をお借りするとしましょう。後で、荷物の整理等が終わりましたら、お嬢様のもとへ改めて挨拶へ向かいます」
「少し疲れているでしょう? ゆっくり休んで」
ジェームズは「ありがとうございます」と言って部屋に向かう。
「ここが、私が見てみたかった「未来の邸の日々」なのね」
ロザリーは邸の隅々まで見回す。
ダレンは今になって、ジェームズが自分に邸の掃除をさせていた理由を知った。彼女が再び目覚めた「この日」に、綺麗な邸を見せたかったのだと。埃が被った邸では、ショックを受けるかもしれないと、再生の日までに綺麗にしておくべきだとジェームズは考えたのだろう、と。邸の中は綺麗に保たれている。
ロザリーは感激に浸っていたが、不意に不安を言葉にする。
「凄い幸せ。でも、正直に言うと少し不安かも」
「何が不安なんだい? ロザリー」
「突然「幸せ」が、舞い込んできた。でも、これが実は夢で、目が覚めたら全てが嘘のように消えているんじゃないかって感じたの」
それは「幸せ」と同時に抱く「不安」だ。
「突然「楽園」へ来たかのようで」
「ロザリー。俺は今後は使用人としてこの邸にずっと居るから、そんな心配はしなくていいんだ。ずっとここに居る」
ダレンは優しい笑顔で彼女に伝える。
「後で紅茶とチョコレートも用意して部屋へ持っていくよ。淡い光の中で紅茶でも飲みながら何か話そう。君の望んでいたこの世界で」
「楽園で紅茶とチョコレートを」END
翌日の朝の10時。
既に起きていたダレンは用意されていた朝食も食べ終えて、玄関の掃除も済ませている。ダレンは「出来る限り平常心で居よう」と心を落ち着けながら、邸の中、いつもと同じルーティンで雑務をこなしていた。
〈そろそろ起きてきてもいいと思うんだけどな〉
邸の中、一階で使用人の仕事をこなすダレン。
すると廊下から聞き慣れた声がした。
『ダレン! ダレンなのね!?』
その声が聞こえたと思った次の瞬間には階段から降りてきていた女の子がダレンの胸に飛び込んでいた。金色のロングヘアーの可愛くて華奢な女の子だ。歳は14歳ほどに見えた。服装は今どきのファッションとは違う。黒と白、アクセントに赤色が使われた簡易なドレス、裾には白のフリルが見える。
胸の中の女の子をダレンは既に知っている。
ダレンの顔を見て、心から嬉しそうな彼女「ロザリア・チャペル」は、溢れ出る喜びからダレンに抱きついて離れようとしなかった。
「会いたかった」
「ロザリー。俺も会いたかったよ」
ロザリーは興奮気味にダレンに話しかけてくる。
「ダレンが邸に居るということは、今は2007年なの? ダレン。私は多分、長い間眠っていたみたいで、さっき目覚めたの。でも、まさか、起きたらダレンが邸に居るなんて考えてなかったの」
「落ち着いて。ロザリー」
ロザリーは、はっと我に返って「そうね。ごめんなさい」と言ってダレンから離れた。ダレンは優しく笑って「謝ることでもないよ」と伝えた。
「相変わらずダレンは優しいのね」
「ああ。君の前では優しくなれるんだ」
ダレンは昨日の夜にジェームズから「ロザリーについて」を聞いていた。
『彼女は再び「繰り返す」のです。一年周期で消えて、翌日に一年間の記憶を失い、再び邸に現れる。それは哀しいことかもしれませんが、それがこの森と、この邸の呪いなのです。彼女は既に幽霊です。私は毎年自己紹介をしていますが、彼女は「ダレン・ベイクウェル」との過去は覚えているはずです。あなたは動揺せずに、いつもと同じように業務をしなさい』
ジェームズはそう言っていた。
ダレンは心で思うことがある。
〈彼女の一年間の記憶は消えて、出会う前に戻った。だけど俺は覚えている。これが邸の呪いだとしても、彼女は不幸にならなくていい。彼女が心から望んでいることを、俺は彼女から伝えてもらった。俺はこの邸に留まり、これからも使用人として働く。彼女を悲しませないために。運命が何度も繰り返しても、俺は彼女を守る〉
少し落ち着いたロザリーがダレンに聞く。
「ダレンはこの邸の使用人で合っている?」
「ああ。俺はこの邸の使用人として働いているんだよ。ロザリー」
その言葉でロザリーは再び喜んだ。
「こんな幸せな朝は初めてかも。ダレン」
その時、邸の玄関の扉が「ギイ」っと音を立ててゆっくりと開く。
黒に白のストライプの、リッチなスーツの男。スマートな体型で、綺麗な姿勢で立っている。その顔は厳格で、表情はほとんど動かない。黒い帽子を被った無愛想な男。先日の夜のうちに邸から一時離れていたジェームズだ。
ジェームズはロザリーの前で帽子を取って儀礼的な仕草で挨拶をする。
「はじめまして。ロザリアお嬢様」
「えっと。誰でしょうか?」
「私は新しくやって来た「ジェームズ・ウィルソン」と申します」
「ジェームズ? あ、確か前にダレンから聞いた執事の名前と同じ。ダレン、彼が未来に居ると言っていた執事のジェームズなの?」
「そうだよ。俺と彼は既に知り合っているんだ。だから彼がとてもスマートで頼れる男だと保証するよ。ロザリーも何かあれば彼を頼ってほしい。彼はとても優しいから」
「よろしくお願いね。ジェームズ」
「ええ。では、何かありましたらいつでもお声かけください。ロザリアお嬢様。それでは私は、どこかの部屋をお借りするとしましょう。後で、荷物の整理等が終わりましたら、お嬢様のもとへ改めて挨拶へ向かいます」
「少し疲れているでしょう? ゆっくり休んで」
ジェームズは「ありがとうございます」と言って部屋に向かう。
「ここが、私が見てみたかった「未来の邸の日々」なのね」
ロザリーは邸の隅々まで見回す。
ダレンは今になって、ジェームズが自分に邸の掃除をさせていた理由を知った。彼女が再び目覚めた「この日」に、綺麗な邸を見せたかったのだと。埃が被った邸では、ショックを受けるかもしれないと、再生の日までに綺麗にしておくべきだとジェームズは考えたのだろう、と。邸の中は綺麗に保たれている。
ロザリーは感激に浸っていたが、不意に不安を言葉にする。
「凄い幸せ。でも、正直に言うと少し不安かも」
「何が不安なんだい? ロザリー」
「突然「幸せ」が、舞い込んできた。でも、これが実は夢で、目が覚めたら全てが嘘のように消えているんじゃないかって感じたの」
それは「幸せ」と同時に抱く「不安」だ。
「突然「楽園」へ来たかのようで」
「ロザリー。俺は今後は使用人としてこの邸にずっと居るから、そんな心配はしなくていいんだ。ずっとここに居る」
ダレンは優しい笑顔で彼女に伝える。
「後で紅茶とチョコレートも用意して部屋へ持っていくよ。淡い光の中で紅茶でも飲みながら何か話そう。君の望んでいたこの世界で」
「楽園で紅茶とチョコレートを」END

