小林航夜さんの作品一覧

Sugar Ballad

総文字数/44,755

恋愛(ピュア)19ページ

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『舞』という声が聞こえた気がした。 「え」と驚いたのは遥木さんの声だったから。  私は声の聞こえた方向へ振り向く。少し先に立っている人物は、間違いなく「あの時」の遥木さんだった。整った美しい黒髪。スマートな黒いストライプのスーツ姿。あの時の遥木さんが優しい眼差しを私に向けて立っていた。 「遥木さん?」  遥木さんは背を向けて路地へと歩き消えていく。 「居るはずがないのに。でも見間違えるはずがない」  答えが知りたくてその後ろ姿を駆け足で追った。すると景色が、蜃気楼のように妖しく揺らめき、その後に目の前に「幻想的な異国の城」が見えた。  そんなことはあるはずない。常識というものが否定しようとしたが、確かに目の前に城が見えている。気付くと、周囲の景色は東京ではなく夜の砂漠になっていた。私の足元、パンプスは砂漠の砂に少し埋もれていた。
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