目立たない総務の私ですが、ハイスペック副社長がジレ甘です

「濡れないようにエントランスまでこれを使え」

鷹司は後部座席から自分用の大きな黒い傘を取り出し、真由の手元へ差し出した。

真由は高級な傘に違いないと思った。

​「えっ……でも、それでは副社長が濡れてしまわれます」

​「俺は車でそのまま自宅の地下駐車場に戻るだけだ。濡れる要素がない。……それとも、傘1本ごときで私が困るとでも思うか?」

​鷹司は「私から俺」に変わっていた。

鷹司は少しだけ呆れたような、けれどどこか楽しげな響きを声に混ぜて、強引に真由の手の中に傘を押し付けた。

​「……ありがとうございます。きちんと手入れをしてお返しします」

​「ああ、急ぎはしない。いつでもいい」

真由が深々と頭を下げ、ドアハンドルに手をかけた時、背後から鷹司の短い吐息が聞こえた。

​「市川」

​名前を呼ばれて振り返ると、鷹司はハンドルに片手を置いたまま、どこか遠くを見るような、けれど確かな熱を秘めた眼差しで真由を見つめていた。

​