目立たない総務の私ですが、ハイスペック副社長がジレ甘です

深夜のオフィス、キーボードを叩く規則的な音だけが静まり返ったフロアに響いていた。

​市川真由(いちかわまゆ)は、眼鏡の奥の目をこすりながらExcelデータと暗号のような数字とアルファベットの羅列と格闘していた。

地味なグレージュのカーディガンに、肩下でひとつに結んだ黒髪。

ごく普通のサラリーマン家庭で育ち、目立つことよりも「完璧に仕事をこなすこと」をモットーにしてきた真由は、社内でも「真面目で影が薄い総務課の市川さん」で通っている。

総務部、フロアーには真由が1人だ。

自分のデスクの筋だけに電灯を着け、残りは真っ暗。

オフィスビルの電気代はバカにならないからと、省エネ対策だ。

夕方までの喧騒が嘘のような静寂の中、数字やアルファベットと格闘してはいるが、仕事は順調に捗っている。

真由は真夏や真冬ではなくてよかったと独り言ちた。