エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

大丈夫。
少しくらいひとりでも平気。
そう思っていたのに。

「結城さん」

後ろから声をかけられて振り向くと、知らない女性が立っていた。
上品なドレスに身を包んだ、年上の人だ。

「初めまして。九重家と親しくしている者ですの」

にこやかな笑顔。
でも、どこか探るような目。

「あなたが、カイルくんの」

その言い方だけで、胸がざわつく。

「可愛らしいわね。でも大変でしょう?」

「え……?」

「この世界は、見た目よりずっと厳しいのよ」

やわらかく言われるぶん、余計に刺さる。

「カイルくんも優しいから、あなたを放っておけないのかもしれないけれど」

放っておけない。
その表現が、胸の奥にちくりと刺さった。

好きだからじゃなくて。
優しいから。
守ってあげたくなるから。

そんなふうに聞こえてしまった。

「無理をなさらないほうがいいわ」

女性はそう言って去っていく。

残された私は、胸の奥が急に冷たくなるのを感じていた。

そのとき。
少し離れた場所から、聞きたくない会話が耳に入る。

「やっぱり九重さんが一番お似合いよね」
「家柄も完璧だもの」
「結城さんは可愛いけど、ちょっと場違いかしら」

場違い。

その一言で、呼吸が浅くなる。

わかっていたはずだった。
こういうことを言われるかもしれないって。
なのに、実際に耳にすると苦しい。

私は思わずその場を離れた。

テラスへ出ると、夜風が頬に触れる。
冷たいのに、全然落ち着かない。

「……何やってるんだろう、私」

小さくこぼれた声が、夜に溶ける。

鳳城くんの隣にいたい。
そう思って頑張ってきた。
でも今は、隣にいることが彼の重荷になるんじゃないかって不安が消えない。

そのときだった。

「結城さん」

振り返ると、九重麗華が立っていた。

「九重さん……」

彼女は私の顔を見るなり、小さく眉を寄せた。

「やっぱり出てきてしまいましたのね」

「……少しだけ、風に当たりたくて」

そう答える声が、自分でもわかるくらい弱い。

麗華は静かに近づいてくる。