エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

「ほのか」

小さく名前を呼ばれる。

「うん」

「前」

鳳城くんの声にうなずいて、私はゆっくり顔を上げた。

下を向かない。
自分を信じていない顔をしない。
何度もそう言い聞かせる。

「大丈夫」

今度は鳳城くんがそう言った。

「俺の隣、似合ってる」

胸がじんわり熱くなる。
そのひと言で、ちゃんと立てる気がした。

会場へ足を踏み入れると、いくつもの視線がこちらへ向いた。
一瞬、息が止まりそうになる。

でも。
隣を見ると、鳳城くんが何でもないみたいな顔で歩いている。
その落ち着きに引っぱられるように、私も一歩ずつ進んだ。

最初は、思っていたより順調だった。

紹介された人たちに挨拶をして、微笑んで、短く言葉を交わす。
何度か緊張で頭が真っ白になりそうになったけれど、そのたびに鳳城くんがさりげなく話をつないでくれた。

「結城さんは、とても聡明だと聞いていますよ」

そんなふうに言われたときも、

「成績だけじゃなくて、努力家なんです」

と、鳳城くんが自然に答えてくれた。

まるで、私を誇ってくれているみたいで。
それがうれしくて、少しだけ自信が持てた。

けれど、穏やかな時間は長く続かなかった。

会場の奥で、鳳城くんのお母様に呼ばれる。

「カイル、少しいいかしら」

その声に、鳳城くんの表情がわずかに変わる。

「今じゃなきゃだめ?」

「大事なお話よ」

お母様の視線が、ちらりと私に向く。

「結城さんは、こちらで少し待っていてちょうだい」

「……はい」

私が答えるより先に、鳳城くんが低く言った。

「すぐ戻る」

その一言にうなずいて、私は彼を見送った。