エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

「本番で誰が何見てても関係ない」

「でも……」

「おまえは俺だけ見てればいい」

甘すぎる言葉に、心臓が止まりそうになる。

「鳳城くん……」

「立ち方も、笑い方も、全部もう十分できてる」

そう言いながら、彼の指先が私の頬にふれる。

「足りないのは自信だけ」

「そんなの、すぐ持てないよ……」

弱音をこぼすと、鳳城くんは少しだけ目を細めた。

「じゃあ俺が持たせる」

「え……」

次の瞬間、彼は私の肩を引き寄せた。

ふわっと体が傾いて、そのまま胸に抱きとめられる。
突然すぎて、声も出ない。

「鳳城くん……っ」

「いいから黙って」

低い声が耳元に落ちる。

「今、おまえに一番足りないのは、余計なこと考えない時間」

包みこまれる腕はやさしいのに、逃がす気がないみたいにしっかりしている。
鼓動の音が近い。
自分の心臓なのか、彼のなのかもわからなくなる。

「おまえは、ちゃんとかわいい」

「……っ」

「ちゃんと綺麗で、ちゃんと俺の隣に似合う」

そんなふうに言われたら、泣きたくなる。

「だから、明日は下向くな」

私は彼の胸元に額が触れたまま、小さくうなずいた。

「……うん」

「誰に何言われても気にするな」

「うん」

「不安になったら」

そこで少しだけ間が空く。

「俺のとこ来い」

その声が、どうしようもなくやさしい。

私はぎゅっと目を閉じた。
好き。
その言葉が喉まで出かかる。
でも、まだ言えない。

代わりに、震える声で小さく言った。

「鳳城くんがいると、強くなれる」

腕の中でそう言うと、彼の体がわずかに固まった。

「……それ、ほんと反則」

「え?」

「そういうこと、こんな状態で言うな」

困ったような、甘い声。
次の瞬間、抱きしめる力が少しだけ強くなる。

「これ以上は、ほんとによくない」

その言い方に、胸がまた騒ぐ。

しばらくして、鳳城くんは名残惜しそうに腕をゆるめた。
でも完全には離れず、近い距離のまま私を見つめる。

「明日」

「うん」

「絶対、俺の隣から離れるな」

「わかった」

「あと」

「え?」

「綺麗すぎたら困る」

思わず目を丸くすると、鳳城くんは少しだけ不機嫌そうに言う。

「他のやつに見られるから」

そのひと言がうれしくて、私は少しだけ笑ってしまった。

「ふふ」

「何」

「やっぱり嫉妬してる」

そう言うと、鳳城くんは私の額を軽く指で押した。

「してるよ」

あまりにあっさり認めるから、今度は私が真っ赤になる。

明日はきっと、こわい。
でももう、大丈夫な気がした。

鳳城くんがこんなにもまっすぐ私を見てくれるなら。
私はちゃんと、前を向いて立てる。

そして迎える慈善晩餐会の夜。
そこでついに、私たちは大きくすれ違うことになる。