エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

私はしばらくベンチに座ったまま、彼女の言葉を反芻していた。

下を向かない。
自分を信じていない顔をしない。
完璧じゃなくてもいい。

何度も心の中で繰り返しているうちに、少しだけ呼吸が楽になる。

その日の放課後。
最後のレッスンのため、私はまたあのホテルの一室に向かっていた。

扉を開けると、鳳城くんがすでに待っていた。

「遅い」

「ご、ごめん」

「三分」

「細かい」

私がむっとすると、鳳城くんは少しだけ笑った。
でもその笑顔はすぐ消える。

「顔見ればわかる」

「え?」

「また何か言われた?」

やっぱりこの人には隠せない。

私は正直に、昼に麗華と話したことを伝えた。
全部ではないけれど、怖くなったことも、下を向かないようにって言われたことも。

話し終えたあと、鳳城くんはしばらく黙っていた。

「……あいつらしい」

「え?」

「余計なこと言って、でもたぶん間違ってはない」

その言い方に、私は少しだけ笑ってしまう。

「やっぱり仲いいんだね」

何気なく言ったつもりだった。
でも次の瞬間、鳳城くんの空気が変わる。

「は?」

低い声に、私はびくっと肩を揺らした。

「え、ちが、そういう意味じゃなくて」

「俺が誰と仲よかろうが気になる?」

まっすぐ聞かれて、言葉に詰まる。

気になる。
すごく気になる。
でも、そんなこと認めたら恥ずかしい。

「……少しだけ」

やっとの思いで絞り出すと、鳳城くんが一歩近づいた。

「少し?」

「う……」

「ほのか」

低く名前を呼ばれるだけで、心臓が苦しい。

「おまえさ」

「うん……」

「今まで俺がどれだけおまえ見てきたと思ってる」

その言葉に、胸がどくんと鳴る。

「他のやつと並べて考えられるの、普通に嫌なんだけど」

熱い。
顔も胸も、全部が熱い。

「ご、ごめん……」

「謝らなくていい」

鳳城くんは私の目の前まで来ると、そっと顎に指をかけた。

「下向くなって言われたんだろ」

「……うん」

「じゃあ、俺を見ろ」

その一言に、私は息をのむ。

ゆっくり顔を上げると、金色の瞳がまっすぐ私を映していた。
逃げ場なんてどこにもない。
でも、不思議とこわくなかった。