エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

「じゃあ離れてほしい?」

その言い方がずるい。
試されてるのがわかる。

私は言葉に詰まって、結局うつむいた。

「……離れなくていい」

答えた瞬間、自分で自分に驚く。
でも本音だった。

鳳城くんは、そんな私を見て目を細めた。

「素直」

「今だけだから……」

「毎回そうして」

無理。
そう言いたいのに、彼の指先が頬にかかった髪を払うから、もう何も言えなくなる。

レッスンは思った以上に丁寧だった。
グラスの持ち方。
ナプキンの扱い方。
歩く速度。
微笑むときの角度まで、鳳城くんはひとつずつ教えてくれる。

意外だったのは、彼が驚くほど根気強いことだ。

「違う。カップはそうじゃない」

「ご、ごめん」

「謝らなくていい。もう一回」

何度失敗しても、投げ出さない。
それどころか、できたときにはちゃんと褒めてくれる。

「今のはよかった」

「ほんと?」

「うん。ちゃんと様になってた」

そのひと言だけで、すごくうれしくなってしまう。

しばらくして休憩になり、ソファへ座ると、私は小さく息をついた。

「疲れた……」

「まだ初日だろ」

「先が思いやられるよ……」

弱音をこぼすと、鳳城くんが隣に腰を下ろした。

「でも、おまえ向いてる」

「え?」

「覚えるの早いし、変に飾らないから見てて嫌味がない」

思わぬ評価に、私は瞬きを繰り返す。

「それ、褒めてる?」

「かなり」

「そっか……」

ふわっと胸があたたかくなる。
鳳城くんに認めてもらえるのは、やっぱり特別にうれしい。

「ほのか」

「うん?」

不意に、名前を呼ぶ声が少し低くなる。

「昨日、母親に何言われたか全部話して」

「えっ」

「誤魔化しただろ」

図星だった。

私は視線をそらしながら、小さく答える。

「……足りない世界もあるって」

鳳城くんの表情が少しだけ冷える。

「やっぱり」

「でも、本当のことだから」

「だからって、おまえがひとりで受け止める必要ない」

その声がやさしいぶん、胸に刺さる。

「私、ちゃんと頑張りたいの」

「知ってる」

「鳳城くんの隣にいて恥ずかしくないように」

そう言うと、彼はしばらく黙った。
それから、ふいに私の手を取る。

「十分だろ」

「え……」

「おまえはもう、俺の隣にいるだけでいい」

その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。
うれしいのに、苦しい。
近すぎて、甘すぎて、どうしたらいいかわからない。

「でも、私もちゃんと並びたい」

小さくそう返すと、鳳城くんは私の手を包む力を少しだけ強めた。