エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

「……機嫌悪い?」

「別に」

「別にって顔じゃないよ」

「中野先輩と仲よさそうだった」

思わず足が止まりそうになる。

「えっ」

「楽しそうに笑ってた」

低い声。
ちょっと拗ねたみたいな響き。

私は思わず顔が熱くなる。

「それは普通に話してただけで……」

「ふーん」

全然納得してなさそうだ。

「鳳城くん、また嫉妬してる?」

勇気を出してそう聞くと、彼はぴたりと足を止めた。

「してたら何」

まっすぐ返されて、今度は私が固まる番だった。

「……っ」

「そうやってすぐ黙る」

「だ、だって……」

「自覚あるなら、あんまり他のやつに笑うな」

そんなことを真顔で言うからずるい。
胸がうるさくて、普通に歩くことすら難しい。

連れていかれたのは、鳳城くんの家の系列ホテルの一室だった。
広いリビングに、長いテーブル。
その上にはティーカップやカトラリーまで並んでいる。

「すごい……」

「ここで教える」

「ここで?」

「家だと面倒だから」

そう言いながら、鳳城くんはジャケットを椅子にかけた。
白いシャツ姿になるだけで、空気が少し変わる。

「まず座り方」

「は、はい」

私は緊張しながら椅子に腰かける。
でもたぶん、ぎこちなさが全身からにじみ出ていた。

「固い」

「だって緊張するもん……」

「肩の力抜け」

「うん……」

言われた通りにしようとするけれど、うまくいかない。
そんな私の横に、鳳城くんがすっと立った。

「こう」

背中に手が添えられる。
肩の位置を直されて、思わず息をのむ。

「鳳城くん……近い」

「教えてるだけ」

低い声が耳の近くで響いて、余計に落ち着かない。

「背筋は伸ばす。でも力入れすぎない」

「う、うん」

「膝と足先は揃える」

そう言いながら、彼の手が椅子の背にもたれる私の姿勢を整えていく。

触れられるたび、心臓が跳ねる。
こんなの、レッスンに集中できるわけがない。

「顔赤い」

「鳳城くんのせい……」

「俺?」

「こんな近くで教えるから……」

小さく抗議すると、鳳城くんが一瞬だけ黙った。
それから、少しだけ笑う。