エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

私は小さく唇をかんだ。

「……無理してほしくない」

その瞬間、鳳城くんが少しだけ目を見開いた。

「無理?」

「私のせいで、鳳城くんが家でつらい思いするの嫌だよ」

本心だった。
自分が拒まれるより、鳳城くんが苦しむほうが嫌だった。

でも次の瞬間、鳳城くんは呆れたみたいに笑った。

「おまえ、ほんとそういうとこ」

「え?」

「自分の心配より俺の心配する」

その声がやわらかくて、胸が熱くなる。

「俺は平気。むしろ、おまえが勝手に離れるほうが無理」

またそういうことを言う。
本当にずるい。

その日の放課後。
私は図書室で返却本の整理をしていた。

中野先輩は今日は委員会の仕事で別室らしく、ひとりで棚を整えていると、入口のほうで小さな足音が止まる。

「結城さん」

聞き覚えのない、やわらかい女の人の声。

振り返った瞬間、私は息をのんだ。

そこに立っていたのは、あの夜、窓辺にいた女性だった。

上品で、きれいで、静かな微笑み。
鳳城くんによく似た金色の瞳。

「初めまして。鳳城カイルの母です」

頭が真っ白になる。

「え……あ……」

慌てて頭を下げることしかできない。

「は、初めまして……!」

「急に来てしまってごめんなさいね」

その声音はやさしい。
でも、そのやさしさが逆に緊張を深くする。

「少しだけ、お話ししてもいいかしら」

断れるはずがない。
私は小さくうなずいて、図書室の奥にある応接スペースへ案内した。

向かい合って座るだけで、背筋が伸びる。
カップに注がれた紅茶から湯気がのぼるのに、私は一口も飲めない。