エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

「カイルさま。お父様がお待ちですわ」

「わかってる」

鳳城くんは私の手を離さない。

そのまま大広間へ入ると、正面の階段の上にひとりの男性が立っていた。

鳳城くんとよく似た金色の瞳。
けれど、その表情には一切のやわらかさがない。

「来たか、カイル」

「呼ばれたからな」

「そちらが結城ほのかさんか」

名前を呼ばれて、私は背筋を伸ばした。

「は、はい。初めまして」

「ふむ」

鳳城くんのお父さんは、私を頭の先から足元まで静かに見た。

その視線に、体が固まる。

「成績特待で星蘭学園に入学したそうだな」

「はい」

「学年二位。努力家ではあるらしい」

褒められているのか、試されているのかわからない。

「しかし、努力だけでは鳳城家の隣には立てない」

その言葉に、胸が冷たくなる。

鳳城くんの手が、私の手を強く握った。

「親父」

「事実を言っているだけだ」

「ほのかに失礼なことを言うな」

「ならば、彼女自身に聞けばいい」

お父さんの視線が、再び私へ向く。

「君は、カイルの隣に立つ覚悟があるのかね」

大広間が静まり返る。

怖い。
逃げたい。
でも、ここでうつむいたら、鳳城くんの隣にいる資格まで自分で否定してしまう気がした。

私はゆっくり顔を上げた。

「……あります」

鳳城くんが、わずかに目を見開く。

「私は、家柄もお金もありません。でも、だからといって、最初から諦めるつもりはありません」

声は震えていた。
それでも、言葉は止めなかった。

「鳳城くんの隣に立つなら、私も自分の力で努力します。誰かに認めてもらうためだけじゃなくて、私自身が胸を張れるように」

しんと静まり返った大広間に、私の声だけが響く。

お父さんはしばらく私を見つめていた。
やがて、ほんの少しだけ目を細める。

「なるほど」

その声に、わずかな変化があった。

「口だけではないようだな」

「ほのかは口だけじゃない」

鳳城くんが、私の前に一歩出る。

「俺が選んだんだ。文句があるなら俺に言え」

その言葉に、胸が熱くなる。

お父さんは息子を見つめ、静かに告げた。

「ならば、証明してみせろ」

「何を」

「彼女が鳳城家の隣に立つにふさわしいかどうかを」

「くだらない」

鳳城くんの声が低くなる。

「俺たちのことに、家の都合を持ちこむな」

「ならば、次の社交行事までに答えを出せ」

お父さんはそう言い残し、階段の奥へ消えていった。

私はその場に立ち尽くしていた。
手のひらが冷たい。

「鳳城くん……」

「見るな」

「え?」

「今の俺、たぶんかなり怒ってる」

そう言いながら、鳳城くんは私の手を握り直した。

「でも、ほのか」

「うん」

「よく言った」

その声は、誰よりもやさしかった。

「怖かっただろ」

「……うん」

「それでも逃げなかった」

鳳城くんは私の額に、自分の額をそっと寄せる。

「俺は、おまえを選んだことを後悔してない」

胸がいっぱいになって、何も言えなくなる。

告白ではない。
まだ、好きという言葉もない。

それでも、その言葉は私にとって、告白と同じくらい大切だった。

鳳城くんは私の手を引き、屋敷の外へ向かう。

「帰るぞ」

「うん」

「次に何を言われても、俺の隣から離れるな」

「……約束する」

夜の庭園を歩きながら、私は強く思った。

この人の隣に立ちたい。
守られるだけじゃなくて、私自身の力で。

そしていつか、鳳城くんが誰の前でも迷わず私を選べるように。
私も、胸を張って隣にいられるように。

その夜、鳳城家の屋敷の窓から、ひとりの女性が私たちを見つめていた。

鳳城くんの母親だった。

彼女は静かに微笑みながら、手元の写真を見下ろす。

そこに写っていたのは、幼いころの鳳城くんと、九重麗華だった。

「……まだ、あの子を選ぶつもりなのね」

その声は、夜の静けさに溶けていった。