エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

噂の一件があってから、鳳城くんとの距離は少しだけ変わった。

前より名前を呼ばれることが増えた。
目が合う回数も、話しかけられる回数も。
それなのに、肝心な一線だけは越えない。

やさしい言葉をくれるのに。
独占欲みたいなものを見せるのに。
でも、好きとは言わない。

……ううん。
たぶん、言わないんじゃなくて、まだ言えないんだ。
私も、聞けない。

そんな曖昧な距離のまま、季節は少しずつ進んでいた。

ある日の放課後。
私は図書委員の先生に頼まれて、資料室へ本の整理を手伝いに来ていた。

「ごめん、結城さん。これ上の棚に入れてもらえる?」

声をかけてきたのは、同じ図書委員の二年生、中野先輩だった。
やわらかく笑う、穏やかな人。
委員会でもいつも丁寧で、話しやすい。

「はい、わかりました」

私は本を抱えて、背の高い棚の前に立つ。
でも、目当ての場所は少し高くて、つま先立ちになっても届きにくい。

「あ、危ないよ」

そう言って、中野先輩が後ろからそっと本を受け取ってくれた。

「俺がやる」

「すみません……」

「結城さん、小柄だから無理しないで」

ふわっと笑われて、私は少しだけ照れてしまう。

「ありがとうございます」

「結城さんって、ほんと真面目だよね。頼まれたこと全部ちゃんとやるし」

「そんなことないです」

「あるよ。見ててわかる」

見ててわかる。
その言葉に、ふと別の人の顔が浮かんでしまって、私は少しだけ胸がむずむずした。