エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

だけど次の瞬間、鳳城くんが深く息をついた。

「……は?」

その声に、私はびくっと肩を揺らす。

鳳城くんは呆れたみたいに額へ手を当てた。

「そんなことで避けてたの」

「そんなことって……」

「噂だろ」

「でも九重さん、否定しなかった」

「俺も肯定してない」

まっすぐ返されて、私は言葉に詰まる。

鳳城くんはさらに一歩近づく。
もう逃げ場なんてどこにもない。

「よく聞けよ、ほのか」

低い声が、まっすぐ胸に落ちてくる。

「家同士のつながりはある。昔から知ってるのも本当」

私は黙ったまま、ぎゅっと手を握った。

「でも、それだけ」

鳳城くんの指が、そっと私の顎に触れる。
逃げないようにするみたいに、やさしく顔を上げさせられた。

「俺が今、気にしてんのは誰」

金色の瞳が、近い。
近すぎて、息がうまくできない。

「おまえだろ」

その一言で、胸の奥が大きく揺れた。

「鳳城くん……」

「噂なんかで勝手に離れんな」

少し怒ったみたいな声。
でも、その奥にあるのはまぎれもない熱だった。

「おまえが避けると、気に入らない」

そんなの、反則だよ。

「だって……」

「だってじゃない」

昨日と同じ言葉。
なのに今は、もっと甘く苦しい。

「俺が隣にいたいのは、おまえだけ」

頭が真っ白になる。

そんなふうに言われたら、もう何も考えられない。
胸の奥が熱くなって、泣きそうになる。

「ほんとに……?」

やっとの思いでそう聞くと、鳳城くんは少しだけ目を細めた。

「何回言わせる気?」

そのまま、彼の指先が私の頬に触れる。
やさしくて、熱い。

「おまえ、普段は鈍いくせに、こういうとこだけ変な方向に考えすぎ」

「だって不安になるもん……」

小さくこぼすと、鳳城くんが一瞬だけ息を止めた気がした。

「……今の、反則」

「え?」

「自分でわかってないだろ」

低くつぶやいてから、鳳城くんは額を押さえるみたいに少しうつむく。
その耳がほんのり赤くて、私は思わず目を見開いた。

もしかして。
この人も少しは余裕がないのかな。

そう思ったら、胸の苦しさが少しだけやわらいだ。

「ほのか」

また名前を呼ばれる。
それだけで、心臓が跳ねる。

「次から、わかんないことあったら勝手に離れる前に聞け」

「……うん」

「返事小さい」

「う、うん」

言い直すと、鳳城くんがようやく少しだけ笑った。

その笑顔にほっとした瞬間。
不意に腕を引かれて、私は彼の胸へ倒れこむように引き寄せられた。

「えっ……!」

「罰」

耳元で落ちた低い声に、全身が熱くなる。

「勝手に避けた分」

「ば、罰って……!」

「しばらくこうしてろ」

そんなの無理。
心臓が壊れそうなのに。

でも鳳城くんの腕は思ったよりやさしくて、突き放すことなんてできなかった。

鼓動がうるさい。
きっと私のも、彼のも。

「……もう、避けるなよ」

髪に触れるみたいな声でそう言われて、私はぎゅっと制服の袖をつかむ。

「……うん」

今度はちゃんと答えられた。

噂はきっと、これからも消えない。
家柄の差だって、簡単にはなくならない。

それでも。
この人がまっすぐ言葉にしてくれるなら、もう少し信じてみたいと思った。

鳳城カイル。
意地悪で、強引で、ずるい人。

でも、私が離れようとすると、ちゃんと追いかけてきてくれる人。

そのことが、どうしようもなく嬉しかった。