エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。

「いきなり何」

「だって、本当にお嬢さまって感じだったし……」

「だから?」

「……鳳城くんと、すごく同じ世界の人みたいだった」

口にした瞬間、自分で少し傷ついた。

きっと私はまだ、どこかで線を引いてしまっている。
この人は特別で、私はそうじゃないって。

鳳城くんはしばらく黙っていた。
その沈黙がこわくて、私はあわてて笑おうとする。

「変な意味じゃなくてね。ただ、似合うなって……」

「似合わない」

「え?」

はっきり遮られて、私は目を丸くした。

鳳城くんは少し不機嫌そうに目を細める。

「勝手に決めんな」

「でも……」

「俺が今こうして一緒にいるのは誰」

その言葉に、息が止まりそうになる。

まっすぐ向けられる視線。
逃げ場のない低い声。
胸の奥が、じわっと熱くなる。

「ほのか」

名前を呼ばれて、肩が揺れる。

「おまえ、余計なこと考えすぎ」

「……だって」

「だってじゃない」

そう言うと、鳳城くんは私の前髪にそっと触れた。
指先が髪を整えるみたいにやさしく動く。

「俺が構ってんのは、おまえだけ」

そのひと言が、まっすぐ胸に落ちてきた。

嬉しい。
でも、嬉しいって思ったらだめな気もして、余計に苦しくなる。

「鳳城くん……」

「なに」

「それ、ずるいよ」

思わずこぼすと、鳳城くんがふっと笑った。

「今さら気づいた?」

その笑い方がいつもの意地悪なものなのに、目だけはやさしい。

だけど、胸のざわつきは完全には消えない。
だって、麗華さんが最後に言った言葉が、ずっと頭に残っていたから。

大事なお話。

あの空気。
あの距離感。
ただの知り合いには見えなかった。

もしかして、あの人と鳳城くんの間には、私の知らない何かがあるんじゃないか。
そう思うだけで、胸の奥がきゅっと痛くなる。

その日の帰り道。
昇降口で靴を履き替えていた私の耳に、近くの女子たちの声が飛びこんできた。

「ねえ、聞いた?」
「九重麗華さまって、鳳城家と昔から交流あるらしいよ」
「じゃあ、もしかして婚約者候補とか……?」

婚約者候補。

その言葉に、指先がぴたりと止まった。

「お似合いだよね」
「家柄的にも完璧じゃない?」
「結城さんとは比べものにならないでしょ」

胸が、痛い。

わかってる。
比べるまでもないことくらい。
でも、こうして言葉にされると苦しくてたまらない。

私はそっと靴箱の扉を閉めた。

鳳城カイル。
意地悪で、不器用で、たまに優しい人。

その人の隣に、本当に似合うのは誰なんだろう。

考えたくないのに、頭から離れてくれない。
そして私はまだ知らない。
この胸の痛みが、鳳城くんとの距離を初めて大きく揺らすことになるなんて。