君とわたしの青春事件簿

「この人……」

「兄だ」

 悠真の声が低く落ちる。

 美桜は写真を見つめた。
 中央に立つその人は笑っていた。今の悠真より少しやわらかい雰囲気で、隣の二人と肩を並べている。

「じゃあ、両隣の人は……」

「分からない。でも」

 悠真は写真の端を指でなぞった。

「これ、ただの記念写真じゃない」

「え?」

 裏返された写真の裏に、かすれた字が残っていた。

あの日のことは、誰にも言うな。

 美桜の背筋がぞくりと震える。

「なに、これ……」

 ただの事故のはずなのに。
 どうしてこんな言葉が写真の裏に残っているのか。

 悠真の表情が、すっと変わった。
 冷静さの奥に、抑えきれない感情がにじむ。

「やっぱり、事故じゃない」

 その声はかすかに硬かった。

「久世城くん……」

「兄は何かを知ってたんだ」

 写真を握る指先に、少しだけ力が入る。

「だから口止めされた」

 風が強く吹き抜けて、階段の下の落ち葉がかさりと揺れた。
 美桜は急に胸が苦しくなる。三年前のこの場所で、本当に何があったのだろう。

「でも、どうして今になって……」

「たぶん誰かが、当時のことを隠しきれなくなった」

 悠真はそう言いながら、写真をもう一度見つめた。

「それで俺のノートを探った。俺がどこまで知ってるか確かめたかったんだ」

 そこまで言ったとき、美桜はあることに気づいた。

「待って。これ、ずっとここにあったのかな」

「どういう意味だ」

「だって、三年前の写真ならもっと汚れててもおかしくない気がする。袋には入ってたけど、昨日とか最近置かれた可能性もない?」

 悠真がはっとしたように美桜を見る。

「……そうか」

「もしかして、誰かがわざと見つけさせたのかも」

 短い沈黙のあと、悠真は小さく息をついた。

「やっぱり春宮を連れてきて正解だった」

「え」

「俺ひとりだと、感情で見落とす」

 そんなふうに言われて、美桜の胸がふわっと熱くなる。

「わたし、役に立ててる?」

「かなり」

 即答だった。

 その一言がうれしくて、思わず笑みがこぼれそうになる。
 けれど次の瞬間、階段の上から小さな足音がした。

 ふたりが同時に顔を上げる。

 誰かがいる。
 でも姿は見えない。

「誰?」

 美桜が声を上げた瞬間、ぱたん、と何かが落ちる音がした。
 階段の途中に、小さく折られた紙がひとつ落ちている。

 悠真がすぐに駆け上がる。
 けれどその頃には、もう誰の姿もなかった。

 残された紙には、短くこう書かれていた。

次に知りたければ、音楽室へ。

 美桜は紙を見つめたまま、ゆっくり息をのむ。

 また次の手がかり。
 まるで誰かが、ふたりを三年前の真実へ導こうとしているみたいに。