氷の君に、恋の歌を。

中庭で歌った次の日。
乃愛は教室に入る前から、いつもと違う空気を感じていた。

廊下ですれ違う生徒たちが、小さな声で名前を呼ぶ。
上級生まで乃愛のことを知っていて、振り返る視線があちこちから向けられる。

「昨日の中庭の子だよね」
「やっぱりすごく可愛い」
「歌もう一回聞きたいな」

そんな声が耳に入るたび、乃愛はまだ少しだけ落ち着かなくなる。
でも前みたいに怖くはなかった。
蓮斗が信じてくれたから。
自分でも、ちゃんと歌えたとわかっているから。

ただ、そのぶん困ることも増えた。

「森下さん、おはよう」
「よかったら今度、軽音部見に来ない?」

昇降口で上級生に話しかけられて、乃愛はぱちぱちと目を瞬かせる。

「えっと、私は……」

どう返したらいいかわからず戸惑っていると、後ろから静かな足音が近づいた。