氷の君に、恋の歌を。

放課後の中庭には、思っていた以上にたくさんの生徒が集まっていた。
突然の代役だと聞いて、みんな半信半疑の顔をしている。

ざわめく人の輪。
少し高くなった簡易ステージ。
胸はやっぱり緊張でいっぱいだった。

けれど、ステージの端には蓮斗がいた。
伴奏はなくても、目が合うだけで不思議と怖さがやわらぐ。

「大丈夫」

口の動きだけでそう伝えられて、乃愛はそっと笑った。

そして、アカペラで歌い始める。

最初の一音が空気を変えた。

さっきまでざわついていた中庭が、すっと静かになる。
乃愛の声はまっすぐに伸びて、校舎の壁にやさしく反射して、そこにいた全員を包みこんだ。

高音は澄んでいて、でも細いだけじゃない。
やわらかくて、あたたかくて、耳に残る。