氷の君に、恋の歌を。

しんとした空気。
乃愛は言ってしまったことに気づいて、ますます恥ずかしくなる。

どうしよう。
こんなの絶対、顔を上げられない。

けれど次の瞬間、蓮斗の手がそっと乃愛の髪に触れた。

「俺もだ」

低く落ちたそのひと言に、乃愛は思わず顔を上げる。

「え……」

「思い出してた」

蓮斗の目は、まっすぐ乃愛だけを見ていた。

「だから、朝から乃愛のこと見すぎたかもしれない」

そんなことまで正直に言われたら、胸がもたない。

「もう……むり……」

小さくつぶやくと、蓮斗はほんの少しだけ笑った。

「慣れないんだろ」

「慣れないよ」

「俺も慣れてない」

その答えが意外で、乃愛は目を瞬かせる。

完璧で余裕のある蓮斗でも、同じようにどきどきしてくれている。
そう思っただけで、胸の奥がじんわり甘くなる。

「でも」

蓮斗は少しだけ身を寄せて、乃愛にしか聞こえない声で続けた。

「またしたいとは思ってる」

「っ……!」

その瞬間、乃愛の頭は真っ白になった。

「れ、蓮斗くん!」

慌てて小声で抗議すると、蓮斗は涼しい顔のまま答える。

「本当のことだ」

本当にずるい。
静かな顔で、こんなに甘いことばかり言うなんて。